世界外交の舞台に立つ新しい指導者
21世紀の国際政治は、「9・11事件」によって生まれた一つの局面から、次の局面に移行しつつある。テロに対する戦いは継続しているものの、イラク戦争の失敗を受け、アメリカは自らの基本的外交路線を変換しつつある。この動きは、2008年の大統領選挙によってさらに進むであろう。しかもイラク戦争の失敗は、世界的な舞台でのアメリカの指導力や影響力を低下させている。軍事力のみでは、いかんともしがたい世界の現実の前に、アメリカは今後とも悩んでいかざるをえない。全般的影響力の低下の中で、アメリカはその外交政策もまた調整せざるをえない。他方、世界のその他の国々でも、9・11事件以後の局面を指導した指導者たちはみな退場し、新しい指導者が生まれようとしている。ドイツのメルケル、フランスのサルコジ、イギリスのブラウンといった新指導者のもと、ヨーロッパは新たな政治を生み出しつつある。
08年には、アメリカのみならず、ロシアでも大統領選がある。東アジアでは、胡錦濤体制はいよいよ本格的な段階を迎え、韓国でも新大統領が誕生し、台湾でも新総統が生まれる。世界外交は新しい指導者にとっての舞台となるのである。
テロとの戦い、温暖化問題をどうするか
このような新しい局面の中で、いかに日本の指導力を世界に発揮し、日本の国益を増進させ、日本の安全保障を確保していくかということが、今後の日本外交の課題である。世界的にみれば、当面の課題は、テロとの戦いのために日本がどのような活動をするのかを決定することである。アフガニスタンでの困難な世界各国の活動に、日本がどのようにかかわるかが焦点となる。
さらに長期で根本的課題は、地球環境問題とりわけ温暖化問題について、どのようなイニシアチブをとるかである。
08年夏に北海道洞爺湖サミットをホストする日本として、温暖化問題に関する世界的合意とりつけのために、リーダーシップを発揮しなければならない。京都議定書に定められた枠組みの、次に来るべき枠組みをどのように構築するかが焦点である。
京都議定書のシステムに入っていなかったアメリカ、中国、インドを、将来の枠組みの責任あるメンバーとして引き込み、地球全体として、温暖化ガスの削減の具体的な目標に合意しなければならない。
07年5月末に安倍晋三前首相が提唱した「クール・アース50」という、2050年までに温暖化ガスの排出量を地球全体で50%まで削減するという目標は維持していく必要がある。今後は日本の科学技術を生かした形で、この目標達成のための具体策の作成にも意を注がなければならない。
ODAの増額、北朝鮮への説得工作
地球的課題の実現のために、日本外交が力を注ぐための足かせとなりつつあるのは、近年の政府開発援助(ODA)削減の傾向である。世界的に政府開発援助を増加させる傾向が生まれるなかで、日本のODA減少は、国際的外交場裏での日本の存在感を確実に低下させている。08年にアフリカ開発のための第3回アフリカ開発会議(TICAD3)が東京で開催される予定であるが、アフリカ援助をめぐっても、日本の影響力増大のためには、ODAを再び増額の方向に向かわせなければならない。
日本周辺の外交課題としては、なんといっても北朝鮮の核開発問題と拉致問題の解決が重要である。07年全体を通して、北朝鮮の核の無能力化がなんとか実現しつつあるが、これを越えて、全面的廃棄のために6カ国協議をさらに進展させる必要がある。
また、拉致問題の解決のためには、6カ国協議の他の参加国との協調をとりつつ、解決の方向に向かうことが、北朝鮮にとっても利益であると思わせる説得工作をしていかなければならない。
いかに建設的な日中関係を築くか
安倍前首相が、就任直後に中国と韓国を訪問し、また事実として靖国神社に参拝しなかったこともあって、日中・日韓関係の悪化はくい止められた。とくに日中関係は、胡錦濤指導部の対日重視の姿勢もあって、きわめて良好な方向に向かうようになった。07年4月に日本を訪問した温家宝首相は、戦後の日本の平和発展を評価し、また日本の指導者の示した歴史認識についても評価し、そしてこれまでの対中援助についても感謝の意を表したのであった。08年にかけて、さらに首脳同士の相互訪問が予定されている。台湾問題の悪化をふせぐことができれば、北京オリンピックにかけて日中関係は相当改善することが期待される。個別の問題を着実に解決しつつ、北京オリンピックの成功によってさらに自信をつけたい中国と、いかに建設的関係を築いていけるかどうかに、日本のアジア外交の長期的展望がかかっている。
重要なのは具体的な成果を出すこと
より広いアジア外交の課題としては、アジア内の多重的な多角外交の中で、どれだけ指導力を発揮するかが重要である。07年に10周年を迎えるASEAN+3首脳会議、3回目となる東アジア首脳会議などで、どれだけ具体的な成果を出すかが重要である。世界的課題としての温暖化対策やエネルギー問題に、アジアとしての方向性を出すうえで、日本の役割は大きい。インドやオーストラリアなどとの関係を重視しつつ、「東アジア共同体」の中核ともいいうるASEAN+3の緊密化のために、具体的なプラン作りが必要となろう。