そもそも国直轄事業とは何か
国、地方自治体(都道府県、市町村)の各政府レベルでは道路、河川、港湾、治水などのさまざまな公共事業を行っている。このうち、国が直接行うものを国直轄事業と呼んでいる。2006年度の国と地方の公共事業実績(行政投資ベース)は24.1兆円、このうち国直轄事業は5.3兆円と2割程度であり、その役割は限定的である。直轄事業は国の事業でありながら、法律により地元の地方自治体(主に都道府県、政令市)が費用の一部を直轄事業負担金(以下「直轄負担金」と呼ぶ)として負担することが義務づけられている。
主な直轄事業における国と地方の負担割合をみると、新築又は改築と維持管理に区分され、例えば道路については道路法に基づき、新築又は改築については国が3分の2、都道府県が3分の1、維持管理については国が10分の5.5、都道府県が10分の4.5とされている。その他、河川については河川法、都市公園については都市公園法など、それぞれの法律で規定されている。
なお、地方自治体関連の直轄事業費総額は09年度当初予算ベース(地方財政計画ベース)で3.5兆円、このうち地方負担額は約1兆円に上る。その内訳では道路整備が約5割を占めており、次いで治山・治水、農業農村整備などの順となっている。
「ぼったくりバー」と称される理由
さて、この直轄事業、地方自治体側からすれば、大規模な事業が国の補助事業に比べて少ない負担で実施されるため、財政面でのメリットは確かにある。しかし、その一方で、事業実施に際しての国と地方の事前協議制度が無いまま事業が決定され、その費用が関係府省から一方的に請求されてくるなど問題点も多い。とりわけ、費用負担の範囲は個別法において新築又は改築あるいは維持管理費とされているが、具体的に計上される経費はもっぱら国が積算し、その総額が請求されるため、地方自治体はこれを十分検証できずに、事実上、国の言い値で負担させられている。
最近、大阪府の橋下徹知事が「ぼったくりバー」と称して直轄負担金の不透明性を批判したが、事実、いくつかの府県の調査により、直轄事業とは直接関係のない国の出先機関の移転費用や、職員の退職手当などの経費が計上されているケースが明らかとなった。
また、個別法で対象とされている維持管理費についても、地方財政法という地方財政の一般法では管理主体に帰属するものとして対象外と解釈されており、そもそもの法制上の矛盾も抱えている。
地方自治体側にも責任がある
09年に入り直轄負担金の実態が次々と明るみに出るなかで、地方側の反発も強まっている。そこには近年の地方財政危機を背景に、地方自治体が公共事業を大幅に削減する一方で、直轄事業の削減は進まず、直轄負担が相対的に高まっている事情もあるようだ。こうしたなかで、都道府県や政令市では直轄事業負担金の見直しを求める動きを見せており、都道府県知事で組織する全国知事会の「地方分権改革の実現を求める緊急アピール」(09年5月)では、直轄負担金の情報開示、国と地方との協議制度の創設、維持管理費負担の廃止、最終的な直轄負担金全般の廃止を提言しており、抜本的改革を望む地方の姿勢が強まっている。
このうち情報公開については、すでに国土交通省や農林水産省が経費内訳の詳細を明らかにしており、維持管理費の廃止についても、総理大臣の諮問機関である地方分権改革推進委員会の意見書に盛り込まれるなど、実現の可能性が高まりつつある。
ただし、情報公開にしても維持管理費の見直しにしても、地域にとっての直轄事業の必要性自体を見直すものではない。すでに公共事業の多くが地方自治体によって行われている現状を踏まえれば、国が直接事業を行うことの意義を問い直すことが改革の本丸であろう。
そのためには、全国知事会が主張するように、直轄事業負担金の原則廃止を基本として、国と地方が対等な立場で事業実施を決定する体制やルールづくりが必要である。こうした仕組みを通じて、できるかぎり直轄事業を縮減し、公共事業の主体を国から地方へと財源の裏付けをもって移す。それでも必要な直轄事業については、国と地方の協議を通じて受益に応じた直轄負担を設定すべきであろう。
これまで直轄負担金の問題が放置されてきたのは、各府省への陳情を通じて直轄事業を誘引してきた地方自治体にも責任がある。本気で改革を進めるのであれば、自らが陳情体質と決別する覚悟も必要である。直轄事業問題の帰結は、地方自治体の分権に対する姿勢を問う試金石となるだろう。