現状は復興どころではない
東日本大震災の発生から2年が経過した。東日本の広範囲に及んだ大規模な震災、巨大津波、原子力発電施設事故といった複合的な大災害であったことだけでなく、政治の機能不全も加わり、政府の対応が遅れたことは間違いない。復興庁がまとめた復興状況(2013年1月)によると、がれき処理は24%、災害公営住宅の着工は27%、漁港の再建は35%、農地の復旧は38%といったように、復興どころか、まだまだ復旧までもほど遠い状態である。また、福島原子力発電所の周辺では、広範囲にわたって放射線量が高く、人が住めない状況が長く続いており、復旧・復興のめどがたちにくいため、多くの住民は遠方に避難している。
司令塔になっていない復興庁
復興の司令塔となるべく復興庁が設置されたのが、震災から11カ月後の12年2月になってしまったことをはじめ、初動時の政府の対応は遅延した。ようやく設置された復興庁は、各府省との調整や国会との調整が必要であるとして東京に置かれた。現場事務所としては、岩手県・宮城県とともに福島県にも「復興局」を置き、さらに二つの支所を設置することで、被災自治体の相談や要望を現地でワンストップで対応しようとしたが、各省庁の縦割り構造は維持された。
また、復興庁を既存の府省よりも「格上」に位置づけ、他の省庁と意見があわない場合は勧告することができる「勧告権」を持たせたが、復興庁は他省庁の役割に踏み込んで判断することができず、実質的な権限を持つことができないため、この間、一度も行使されていない。現状は「格上」ではなく「格下」といった状況といえよう。
乱立する縦割り復興組織
自公政権になって、復興大臣を中心に現地での意思決定のスピードを速めるために、復興庁の福島復興局、環境省の福島環境再生事務所、内閣府の原子力災害現地対策本部という府省をまたぐ3つの組織を束ねる「福島復興再生総局」(=総局)を設置した。さらに、福島復興再生総局で解決できない問題に対応するために、「福島復興再生総括本部」を東京に新たに設置して、復興大臣が関係省庁の局長クラスを直接指揮できる仕組みにした。これまで除染の苦情を福島環境再生事務所に取り次ぐことしかできなかった福島復興局だが、環境省が担ってきた除染の企画・調整機能を復興庁に移すとともに、総局の設置に伴い、今後は、復興大臣が実施主体の福島環境再生事務所の業務にも影響力を及ぼすことが可能になった。
さらに、政府は、政治家を中心にして各省庁を動かすために、環境大臣と復興大臣がツートップになって、関係省庁の局長による「除染・復興加速のためのタスクフォース」を作った。しかし結果は、復興に向けた検討組織を乱立させてしまうことになった。むしろ、指揮命令系統を明確にしてスマートな組織体制に再構築すべきである。
所管省に縛られる復興交付金
また、復興の円滑かつ迅速な推進を目的とした復興特区法を制定させ、復興交付金をはじめとする「税・財政上の特例」などが定められた。復興交付金は、集団移転や災害公営住宅、漁港整備など国が決めたインフラ中心の「基幹事業」(ハード事業)40項目と、基幹事業に関連する「効果促進事業」(ハードおよびソフト事業)で構成されている。効果促進事業を交付対象に含めることにより、自治体においてより地域のニーズに即した自由度の高い事業実施が可能になるように設計された。自治体においては交付金を基金化することで年度間の繰り越し手続きが不要になるなど、手続きの簡素化が図られた点は評価できる。一方で、復興交付金は、自治体が交付対象事業を束ねて一括した事業計画を作成したとしても、交付決定時においては個々の事業について所管省が定める交付要綱に縛られ、かつ各省大臣が内閣総理大臣との協議を通じて決定権限を事実上保持する形になっている。つまり、従来型の縦割りの国庫補助金の域を超えないことは明らかであり、自治体が作成する事業計画の総合性が損なわれる恐れがある。
また、被災自治体が交付申請を行う際に、事業計画を作成し、窓口である復興庁との事前調整をするなど、多大な労力が割かれているのが現実である。今後、復興交付金については、地域の実情を最大限に反映し、迅速に事業が遂行できるよう、使途のより自由な財源措置を検討すべきであろう。
あいまいな復興予算の定義
さらに、復興予算については、自公政権に代わって、15年度までの5年間で復興予算枠を19兆円から25兆円へと6兆円増額された。しかし、これまでの復旧・復興関連予算の執行率は低く、11年度は予算額の15兆円のうち6兆円が繰り越されたり、国庫に返納されたりしている。こうした背景には、被災地の自治体および受託企業の技術職の人材不足、生コンクリートなどの資材不足による資材単価の高騰などが原因になって、被災自治体が工事を発注しても入札が不調となるケースが増えているためである。今後は、公務員OBや民間技術者を積極的に活用し人材支援を強化するとともに、資材の安定供給に向けた全国規模の情報集約、連絡・調整が大切になる。
また、自由民主党が選挙公約で掲げた「国土強靭化」関連の公共事業が全国展開されると、増額された復興予算の執行が、より一層困難になることも懸念される。さらに、第3次補正予算編成(11年11月)では、集中的に予算計上されたこともあり、各省庁が復興関連の事業と少しでもみなされうる事業を復興予算枠に付け替え、自治体に対しても復興予算の枠での補助金申請を奨励した。確かに、自治体においては、財政難が恒常化しているために歓迎されただろう。こうした復興予算の流用問題は、復興事業の定義があいまいなために生み出されたといえる。まずやるべきことは、復興事業の定義を明確にした上で、大規模災害に対する復興マネジメントのあり方を見直すことがいちばんの課題になる。