この路線は、税金は高くなるが、サービスが充実するという「大きな政府」というあり方につながる。
この「お金」をめぐる対立軸に対して、もう一方の「価値」をめぐる対立軸は「リベラル」と「パターナル」である。
「リベラル」は、個人の価値観に対して権力は極力介入せず、自由を保障しようとする。逆に「パターナル」は父権的な価値の押しつけを是とし、価値の自由を制約しようとする。例えば、「リベラル」が「強制的な夫婦同姓」制度に異を唱え、夫婦別姓という選択肢を容認するのに対し、「パターナル」はこれを認めようとしない。あくまでも「強制的な夫婦同姓」を国民の価値観として固定化する。
このような二つの対立軸で政治を捉えた時、大きく4つの立場が浮上する。このマトリクスで政党のあり方を整理することは、政治の見通しをよくすることにつながると考える。
「希望の党」のわかりにくさを解消すべき
現在の安倍政権は、どの象限に位置づけられるだろうか? これは間違いなく「Ⅳ」であろう。法人税減税を始め、「お金」をめぐる政策の基調は「リスクの個人化」にある。社会的弱者が福祉に頼ることに懐疑的で、競争や自己責任を強調する。「価値」をめぐっては、あきらかに「パターナル」な傾向を強めている。特定秘密保護法から共謀罪(組織犯罪処罰罪)に至る政策は、個人の価値観に対する監視権力の強化であり、歴史認識についてもタカ派的立場を堅持する。
このような政権与党に対抗するには、どのようなヴィジョンを掲げるべきだろうか。当然、「Ⅱ」のポジションを取ることが、対立軸を明確化することにつながる。「リスクの社会化」と「リベラル」を基調とする政策を掲げ、オルタナティブを提示することが望ましい。
先の衆議院選挙で、希望の党が失速した最大の要因は、この構図の整理ができていなかったことにある。
何と言っても希望の党をわかりにくくさせたのが、小池百合子・東京都知事の存在である。小池知事は、「自助」を強調する「リスクの個人化」路線であり、「夫婦別姓反対」やタカ派的歴史認識に見られるように「パターナル」な姿勢を鮮明にしている。つまり、安倍政権と同じ「Ⅳ」の象限に位置づけられる政治家である。だから、安倍政権に対する「政権選択」を掲げても、「現政権と一体何が違うのか」という疑問を有権者は抱き、対立軸がわかりづらくなった。
民進党の希望の党への合流を主導した前原誠司氏は、直前の民進党代表選挙で「All for All」を掲げた。明らかな「リスクの社会化」路線の表明である。これは前原氏だけでなく、他の民進党からの合流組にも共有されてきた方向性である。細野豪志氏は2015年1月の民主党代表選に出馬した際に、次のような理念を掲げている。
我が国が直面している人口減少と格差拡大の傾向を反転させ、正社員として働ける社会、結婚できる社会、安心して子育てできる社会を目指します。(代表選パンフレット)
また、「価値」の問題についても、「価値の押しつけ・排除から 多様性ある社会へ」を掲げ、次のように主張している。
選択的夫婦別姓を導入し、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)への偏見を排除します。里親・養子縁組の活用、障がい者福祉、DV・自殺対策を重視します。(代表選パンフレット)
細野氏の場合、このような政治的主張は希望の党に移っても、ブレていない。だからこそ、希望の党の指針として「寛容な改革保守」という方向性を打ち出したのだろう。「寛容」とは「リベラル」のことであり、希望の党も全体として「リベラル保守」を政策の基調としている。よって希望の党の多数派は「Ⅱ」の路線ということになる。
端的に言って、希望の党の最大の失敗は小池都知事を担いだことにある。「政権選択」と言いながら、安倍政権と同じ方向性の人物をトップにしたことで、選択のための対立軸が不明確になったことが最大の問題だった。さらに中山恭子氏、中山成彬氏のような右派政党「日本のこころ」のメンバーを入れたことが、わかりにくさを加速させた。中山成彬氏は選挙戦前にツイッターで、「安倍(晋三)首相の交代は許されない」と投稿し、「政権選択」という看板を内側から崩壊させた。
逆に、立憲民主党は「Ⅱ」の立場を鮮明にしたため、政権との対立軸の明確化に成功し、多くの支持を集めることに成功した。このことは希望の党の今後にとって、極めて示唆的である。いくら中道保守の票を獲得しようとしても、「Ⅳ」の政党と見なされる限り、自公政権のオルタナティブとはならない。あくまでも「Ⅱ」を基調としなければ、有権者の選択肢とはならない。
つまり、結論は簡単である。小池都知事をはじめとする「Ⅳ」の政治家と明確に決別するしかない。「Ⅱ」と「Ⅳ」の対立的な矛盾を党内に抱えている限り、希望の党に未来はない。玉木代表を中心に、「Ⅱ」の方向性を取る「リベラル保守」政党として、理念を確立するべきである。
共産党の政策は保守的
「Ⅱ」の路線を取る政党が共闘して選挙に勝ち、政権を担うためには、日本共産党の存在を無視することはできない。小選挙区で1対1の勝負に持ち込むためには、共産党との選挙協力が不可欠である。希望の党のもう一つの失敗は、「共産党と選挙協力をすると左傾化する」と考え、野党共闘を拒絶した点にある。
しかし、共産党の掲げる政策をじっくりと吟味すると、極めて保守的であることに気づく。例えば、新自由主義やグローバル資本主義の暴走に対峙し、「TPP反対」を掲げ、農家や中小企業を守ろうとしている。大企業の過剰な内部留保と利益を中小企業など社会に還元し、家計・内需主導の安定路線を目指している。共産党の内政面での政策は、どの政党よりも保守的である。
つまり、共産党と組むことで左傾化するのではなく、共産党の政策を取り込むことによってこそ、本来の保守へと接近するという逆説が存在する。ここが共産党との関係を構築するうえで重要なポイントとなる。
もちろん、政党間の齟齬(そご)は存在する。最大の問題はアメリカとの関係だろう。共産党は「日米安保条約の廃止」を主張し、「対等平等の日米友好条約」を結んだうえで、日本国内の米軍基地の撤退を訴える。対米従属を批判する共産党の主張は、本来の保守派の路線と軌を一にするが、現実的には一気に同盟関係の解消を進めることは難しい。野党共闘を進めるためには、対米関係についての短期的・中期的・長期的ヴィジョンを調整する必要がある。
これからは「Ⅳ」のネオコン的安倍政権に対する「Ⅱ」の政党による共闘関係構築が重要になる。その時の理念の方向性は「リベラル保守」ということになるだろう。ここに共産党や社会民主主義者との連帯が構築できれば、野党による連立政権の樹立は十分可能である。立憲民主党が中核となって希望の党とタッグを組み、共産党と共闘する「リベラル保守」政権の樹立こそ、次の課題となる。