冷戦時代にアメリカとソ連の間で結ばれた海上事故防止協定でも、あるいは日本とロシアの間で1993年に結ばれた海上事故防止協定でも、適用範囲に領空・領海を含むことはしておらず、日本側の反対は妥当と言える。
また、仮に海空連絡メカニズムの運用が開始されたとしても、中国がどこまでこれを実際に遵守するかという疑念が残る。南シナ海におけるスプラトリー(南沙)諸島をめぐる軋轢では、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国との間で02年に南シナ海行動宣言(DOC)を導入して紛争を回避に努めてきたが、拘束力がないため、その後も中国が少しずつ領域の拡張を図っている現実がある。
海空連絡メカニズムの実現は、日中間の信頼醸成の深化に向けた意義を持ち得る。一方で、その対象範囲をめぐる交渉がどのように妥結するか、また運用が始まったとして完全に履行されるか否か、という点で危うさも残っている。東シナ海の動向は、今後とも注視していく必要があるだろう。