私は、安倍政権の経済政策をすべて評価しているわけではありません。金融緩和は確かにある程度進んだかもしれませんが、それを効果的に生産物やサービスへの需要に回すために必要な財政出動は十分ではなく、社会福祉や教育など、人々の生活を支える分野への公的支出はむしろ大幅に削減されました。人々の生活がとてもよくなった、暮らしやすくなったとは言えない状況だと思います。
ただ、それでも安倍政権下で若干でも景気が上向きになり、非正規雇用が多いとはいえ失業者が減ったことは事実です。だからこそ、多くの人が与党に票を投じたし、安保法制や特定秘密保護法の強行採決、森友・加計問題などのさまざまな疑惑がありながらも、政権が一定の支持率を保ち続けているのではないでしょうか。
そうした状況を変えていくには、安倍政権に批判的な人たちこそが、もっと魅力のある経済政策を示さなくてはならない。人々の生活そのものを底上げする「反緊縮・財政出動」政策こそ、アベノミクスに対抗する「もう一つの選択肢」になり得るはずだ──。私はそう考えてきたのです。
あきらめが広がる中に、「もう一つの選択肢」を示す
18年にブレイディみかこさん、北田暁大さんと『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』(亜紀書房)という本を出したあたりから、少しずつこうした主張に賛同する声をいただけるようになりました。その手応えを感じたことで、「それなら、候補者の中にも賛同してくれる人たちがいるのではないか」と考えたことが、「薔薇マークキャンペーン」を立ち上げたきっかけです。
財政再建論が根強い中、「もっと公的支出を拡大すべきだ」という私たちのような主張を、政党が全体として掲げるのは難しいでしょう。しかし、候補者個人としては、共感してくれる人もかなり多いと感じています。このキャンペーンは、そうした候補者を「可視化」するためのもの。今、日本には「政治志向的にはリベラルだけど、経済政策は重視したい」という人への受け皿になる政党、政治勢力がない。しかし政治家個人でその選択肢を可視化できれば、安倍自民党一強に歯止めをかける一助になるのではないか。ひょっとしたらいずれは、アメリカにおける「サンダース派 」のようなものの形成につながっていくかもしれないと思います。
最後に一つ、興味深いデータを示したいと思います。
(図1)は、厚生労働省が毎年実施している「国民生活基礎調査」での、「各種世帯の生活意識」についての回答をまとめたものです。「生活が苦しい」と答えた人の割合は、13年に安倍政権になってからわずかながら減少しているものの、依然約6割でバブル期に比べると 1.5倍以上に増えています。ところが、内閣府が行う「国民生活に関する世論調査」の中で「現在の生活に対する満足度」に関する設問の回答を見ると(図2)、「満足」「まあ満足」と答えた人の割合は、今や7割台に達し、なんとバブル期よりも多くなっているのです。
つまり、バブル期以降の20年あまりで、人々の「生活」に対する期待値は、大きく下がってきたわけです。特にバブル期などを知らない若い世代は、この「生活が苦しい」状態が当然だと思っている。だから、安倍政権下でわずかでも雇用が増え、景気が上向いたことを非常にありがたいと感じているし、「政権が代わったら、またもっと悪くなるのではないか」「職を失うのではないか」という不安やおびえがとても強い。結果として、安倍政権の経済政策にすがりつかざるを得ないというのが現状なのだと思います。
それに対して「いや、もう一つ別の選択肢があるよ」と示すのが、薔薇マークキャンペーンの役割だと思っています。一握りの人たちによってコントロールされている「経済」を民衆の手に取り戻し、何よりもまず、人々の生活のためにお金を使う。そうして、多くの人たちが抱えている生活不安を、希望へと変えていく。そのための政策が今、何より求められているのではないでしょうか。
キャンペーンの名前になっている「薔薇」は、古くから世界中で、人々が豊かな生活と尊厳を求める運動の象徴とされてきました。同時に、「Rebuild Our Society and Economy(私たちの社会と経済の再建を)」の頭文字ROSEでもあり、お金を「ばらまく」(=積極的に財政出動する)の意味も込めています。
私たちの社会と経済を、ここからつくり直していくために。ぜひ、このキャンペーンに広く関心を持っていただければと思います。
サンダース派
バーモント州選出のアメリカ上院議員である、バーニー・サンダースを支持する人々。