地方議会で少しずつ議席を確保して、19年の統一地方選挙では26人の当選者を出し、インターネット上の支持だけでなく、政治組織としての地盤固めを着実に進めてきたのだ。
満を持しての国政初進出となった今回の参院選では、全45選挙区のうち37選挙区に候補者を擁立。比例でも立花氏を含めて4名を擁立した。「供託金の300万円を用意できれば誰でも構わない」という姿勢で、候補者の中にはNHK問題を全く訴えない人や、逆に「NHKから国民を守る党には絶対に投票しないでください」と訴える人までいた。候補者には立花氏と同じYouTuberも多く、政見放送では歌ったり叫んだり、被り物をして登場する候補まで現れ、放送後すぐさまYouTubeに転載され、決めゼリフの「NHKをぶっ壊す!」が広く浸透していった。
選挙区での議席確保は当初から目標にしておらず、選挙区全体で2%以上を得票して、政党要件を獲得することに主眼を置いていた立花氏としては、立候補者名簿や街のポスター掲示板に「NHKから国民を守る党」の名前があることが重要であって、有権者に対して「選択肢」を提供することさえできればそれが叶う、という見積もりだったと考えられる。
実際にはその通りの結果となるばかりか、自身も難しいと感じていた比例区での議席まで獲得してしまったのだ。
YouTuberの立候補があった一方で、今回の選挙では候補者のYouTuber化とも言える現象も目立った。東京都選挙区から立候補した音喜多駿氏(維新)は、同じく維新の全国比例で立候補していた柳ヶ瀬裕文氏とセットで選挙戦を展開していた。
「おとやなチャレンジ」と題して、バラエティ番組を模した様々な「チャレンジ」を行い、インターネットで配信して注目を集めた。例えば公示翌日の7月5日には「鉄人&耐久編」として、音喜多氏は地元の北区から蒲田駅までの約35kmを徒歩遊説、一方の柳ヶ瀬氏は蒲田駅で早朝から12時間演説をし続けて音喜多氏を待つ、という企画であったり、市販されている超大盛りのカップ焼きそばを食べきる動画をアップしたりと、従来は見られなかった新しい選挙運動を、有権者の反応を見ながら手探りで進めてゆく様子が見て取れた。
特に、街宣車の上から音喜多・柳ヶ瀬両氏がマイクを握り、漫才コンビのように調子を合わせて演説をする自称「掛け合い演説」は聴衆に強いインパクトを与えた。
音喜多・柳ヶ瀬両氏は当落ラインギリギリでありながらも議席獲得を果たすことができたが、YouTuber候補は失敗例も少なくない。「国民民主党」は、スリランカ出身で羽衣国際大学の教授を務め、ビジネスの世界で成功し、タレントとしても活動している、にしゃんた氏を大阪選挙区から擁立した。にしゃんた陣営は猫の着ぐるみ「にゃん太」をマスコットキャラクターに据え、YouTubeでは「大阪100のええやん活動」と称して、にしゃんた氏がラップ、滝行、大喜利、落語など様々なことに挑戦しながら政策を訴えてゆく「にしゃんたチャレンジ」をアップしたが、再生数は2000回前後にとどまり、お世辞にも成功とは言えない結果となった。にしゃんた氏に限らず国民民主党はJAXA職員である水野素子氏(東京選挙区から立候補)に「宇宙かあさん」というキャッチフレーズをつけ、玉木雄一郎代表とともに人気アニメ「機動戦士ガンダム」のコスプレで街頭演説会に登場させた。大塚耕平氏(党代表代行・愛知県選挙区から立候補し当選)は着ぐるみの「民主主義怪獣デモクラシー」と特撮ヒーロー風の「国民戦隊コクミンジャー」を率いて選挙を戦ったりした。いずれもインターネットやテレビで触れられることはあったものの、これらの旧くからある広告代理店的な戦略は、N国やれいわのような新しい動きと比較すると、冷笑的に捉えられていた印象だった。
オタク族議員の誕生
インターネット上に強力な支持基盤を構築して国会に議席を獲得したほとんど初めての例と言えるのが、山田太郎氏(自民)だろう。マンガ、ゲーム、アニメといったいわゆる「オタク」向けコンテンツの表現規制に反対する政策を強く打ち出し、インターネットを通じて多くの支援者・支持者を獲得していった。自身の政治団体「表現の自由を守る会」を立ち上げて臨んだ3年前の参院選では個人票で29万票余りを獲得するも、所属していた「新党改革」全体で議席獲得が叶わず落選。今回は自民党の比例名簿に掲載されると、3年前に自民党の比例候補が獲得した最大得票数52万票を超える53万票を目標とし、大ヒットマンガ『ドラゴンボールZ』のセリフを借用して「『私の戦闘力は53万です』と言わせてください!」と訴え、支持を拡げていった(実際には54万票を獲得)。
ツイッターで支援者は山田氏のトレードマークとなっている蝶ネクタイに似た記号「⋈」をアカウント名に入れて連帯を呼びかけた。#MeToo運動などから着想を得たと思われる、このようなインターネット文化を上手に選挙運動に活かしていった。
デモとしての街頭演説会
これまで街頭演説は、選挙区内のターミナル駅やショッピングモールの近くなど人が多く集まる場所で行うのが定石で、それ以上の意味が問われることはあまりなかったが、インターネット選挙運動の解禁後は新たな動きが見え始めている。
元セブン-イレブンのフランチャイズオーナーで、本部から搾取される制度に耐えかね、コンビニ加盟店ユニオンに加入して労働問題として訴えた三井義文氏(れいわ)は、選挙期間中の7月11日(セブン-イレブンの日)、午前11時から午後7時までの長時間にわたって、東京・四谷のセブン-イレブン・ジャパン本社前で街頭演説会を行った。