2013年の参議院議員選挙からインターネットを使った選挙運動が解禁となり、6年が経過した。この間、スマートフォンやSNSの普及率は右肩上がりに伸び続け、世代を問わず日常的にこれらを用いて情報を収集し、発信することが一般的になった。
インターネット選挙運動の解禁により、選挙はどのような進化を遂げたのだろうか。2019年7月に行われた第25回参議院議員通常選挙の取材を通じて見えてきた動向を紹介したい。
●インターネット選挙運動でできること
インターネットを使ったドブ板選挙
今回の選挙で最も注目された候補者の一人が鈴木宗男氏(「日本維新の会」、以下「維新」)だった。2010年に受託収賄罪などの罪で実刑判決が確定し、17年まで公民権停止となっていた彼にとって久しぶりの挑戦となった今回。鈴木氏は、全国比例区からの立候補を選択した。
鈴木氏は衆議院議員選挙が中選挙区制度で行われていた時代、同じく自民党の故中川昭一氏や武部勤氏らと北海道で激しく議席を争いながら、選挙区内をくまなく回って有権者と直接対話を重ねることで支持を拡げてゆく、いわゆる「ドブ板選挙」を得意として地盤を固めてきた。
そんな鈴木氏にとって、日本全国が選挙区となる参院選比例区での闘い方は相性が悪いのではないかと見られていた。ところが、いざ選挙が始まるとムネオ選対は有権者の度胆を抜く戦略を次々と繰り出していったのだった。
まずは参院選公示の前日にTwitterアカウントを取得。一方的な情報発信にとどまらず、積極的に他のTwitterユーザーのツイートにユーモアに富んだコメントをしてゆくスタイルで話題を集め、「#むねおったー」を用いた情報の拡散にも成功していった。
インターネット空間上だけでなく、自身の遊説そのものも全国比例区と「SNS映え」に最適化された戦略が練られていた。立候補届出後の第一声の場所に、北海道最東端の納沙布岬を選んだのだ。注目度の高い候補者である鈴木氏の第一声ということで当然メディアの取材陣を引き寄せて耳目を集めつつ、自身が長く取り組んできた北方領土問題を訴えることができた。
さらにその翌日には日本最西端の与那国島に、選挙戦3日目には東京を経由して日本最北端の宗谷岬に足を運んだ。それぞれは人口の多い場所ではなくとも、その驚異的な移動距離を示すことでメディアを通じてインパクトを与え、北海道・沖縄開発庁長官を歴任した経験をアピール。また、歌手の松山千春氏や俳優のスティーブン・セガール氏、元秘書のジョン・ムウェテ・ムルアカ氏といった個性的な応援弁士と遊説することで、テレビやSNSでさらなる話題を集める。これらの巧妙な手法が功を奏し、最終的に維新から比例代表で出馬した候補者の中でダントツの22万票超を獲得。開票と同時の午後8時に当選確実を決めた。
YouTuber化する選挙運動
今回の参院選で改選された124議席のうち、最後に確定した議席に滑り込んだのが「NHKから国民を守る党」(以下「N国」)代表(現在は党首)の立花孝志氏だった。政党要件を満たさない政治団体は、一般にマスメディアでは「諸派」として扱われる。2001年、参議院議員選挙に非拘束名簿式の比例代表制が導入されて以来、参議院比例区で諸派が議席と政党要件を獲得した例は、今回のN国と山本太郎代表率いる「れいわ新選組」(以下「れいわ」)がそれぞれ当選者を出すまで一度もなかった。
N国はインターネットでの活動を出発点としている。立花氏自身は元NHKの職員として、不正経理を内部告発し、同社を退職した。その後YouTuberとしてNHKの受信料徴収者を追い払うテクニックを指南しつつ、自身の携帯電話番号を公開し、一般市民が徴収者とのトラブルについて日本全国から直接相談できる窓口を自分自身で担ってきた。さらに、玄関先に貼ることのできる、立花氏の電話番号とN国の党名を前面に押し出した「NHK撃退シール」を、インターネットを通じて無料配布し知名度を向上させていった。現在、N国は相談者向けのコールセンターを設置している。
2013年の結党以来、YouTubeやニコニコ生放送のユーザーを中心に支持者を獲得。