また、非正規労働者として働いていた職場で雇い止め解雇をされた経験を持つ大椿裕子氏(社民)も、比例候補として日本全国を回る中で特に注目を集めたのが、人材派遣会社最大手で、元金融担当大臣の竹中平蔵氏が会長を務めるパソナ本社前での街頭演説だ。多様なゲストスピーカーを招きながら、自身と同じいわゆる「ロスジェネ」世代を中心に、労働者が使い捨てられている現状の変革を訴え、小泉(純一郎)-竹中路線での労働規制改革を批判していた。
セブン-イレブン・ジャパン本社もパソナ本社も都心に位置してはいるものの、目立って人通りが多い場所というわけではない。しかし、場所の持つ意味合いが強く、SNS等で話題となりやすい。それぞれの演説をしっかり聞かなくとも、ツイッターのタイムラインに「派遣労働の問題を訴える候補者がパソナ本社前で演説をしている」といった情報が回るだけで強い印象をもたらすことを狙ったものだと考えられる。
ただし、こういった「デモを兼ねた街頭演説」の効果は現時点で限定的なようで、三井氏、大椿氏とも個人票は党内で一番少なく、議席獲得には至らなかった。
選挙運動と選挙制度のこれから
この10年間で、選挙運動や選挙制度には様々な変化があった。例えば、選挙公報を各選挙管理員会のWebページからpdfでダウンロードできるのが一般的になった。沖縄県那覇市の選挙管理委員会では、候補者用のポスター掲示板にQRコードを掲載し、各候補者の選挙公報に簡単にアクセスできるようにするなど、様々な取り組みがなされている。
加えて、今回の参院選では、文章や写真を使ったSNSで、有権者と直接的なコミュニケーションを取れるようになったのみならず、リアルタイムで動画を配信できるサービスなど、インターネットで選挙を闘うツールが簡単に使用できるようになったことで、どの陣営も工夫次第で大きく票につなげることができるようになったことが特徴としてあげられる。一方で、少しでも法的・倫理的に正しくない部分が見えてしまうと、それが一気に拡散して悪いイメージが定着してしまうリスクもあるのがインターネット選挙運動の恐ろしい部分である。
有権者にとっても、自宅のパソコンやスマートフォンを用いてより簡単に候補者の政策にアクセスできるようになり、政治家に親しみをもちやすくなったが、その分、一面的な情報ばかりを収集してしまうリスクも少なくない。有権者も同様にリテラシーを試される機会となるのが選挙なのかもしれない。
今後も有権者の生活スタイルに合わせて、より効率的で簡便なものとして変革してゆくことが求められている。
現在、政見放送はNHKと民法で選挙期間中数回ずつテレビとラジオで放送されるが、録画、録音しない限り放送時間以外に視聴・聴取できない。これも、選挙管理委員会の責任においてインターネットを通じていつでも見られるようにすることが検討されるのも遠い未来ではなさそうだ。
一方で公職選挙法においては、いまだにポスターを各陣営が手で貼らなくてはいけなかったり、選挙カーでは、有権者から迷惑だという声が絶えない「連呼行為」しかしてはならないと定められていたりと、旧態依然としたところが指摘されている。しかしこの法律を改正することができるのは現行の法制度で議席を獲得した国会議員なのだ。当然のことながら、自分が勝った制度を変えようという力はなかなか働きにくい。
ただし、議員たちにとって、投票期間中、有権者に支持する人物の名前を投票用紙に書いて投票箱に入れてもらい、その数を競う、という選挙の本質は今後も変わらない。
選挙はもちろんだが、その機会に限らず、有権者一人一人が制度の矛盾に気づき、政治を担っている議員たちに対して訴えかけることで意識を変えてゆくほかない。