だが、この目標については、専門家や環境NGOなどから、疑問の声が上がっている。まず、「グリーン成長戦略」では、「全ての電力需要を100%再エネで賄うことは困難」だと決めつけているが、公益財団法人自然エネルギー財団(会長:孫正義氏)は、フィンランドのラッペンランタ工科大学、ドイツのシンクタンク「アゴラ・エナギーベンデ」との共同研究から、日本において“2050年時点で再エネ100%は可能”だと主張している。
また「グリーン成長戦略」では、再生可能エネルギーの課題として、高コストや電力の需給バランスの調整力不足などを指摘している。ところが、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は昨年6月に公表した報告書で「2019年に新規に導入された大規模な再生可能エネルギーによる発電の設備容量の56%は、最も安価な化石燃料による発電コストを下回っています」と強調している。
IRENAによれば、太陽光発電のコストは2010年から2019年までに82%低下し、陸上風力発電は39%、洋上風力発電は29%低下。今後もさらなるコスト低下が見込まれるとしている。また環境省は経済性を考慮した再生可能エネルギー導入のポテンシャルを、最大で現在の電力供給量の約2倍と試算しており、日本における再生可能エネルギーの可能性は極めて大きい。
また、天候により左右されやすい再生可能エネルギーの供給の不安定さを補う対策として、自然エネルギー財団は、地域間電力移出入(地域間での電気のやり取り)や、そのための送配電網の運用強化と新設、電力貯蔵設備の増設などの対策をあげている。
今後、再生可能エネルギーの普及が飛躍的に進めば、再生可能エネルギーを使用して製造される「グリーン水素」を飛行機や船舶の動力源などとして活用できるようになるだろう。水素は燃やしても、CO2が発生しないため、燃料や熱源としての利用が期待されている。
石炭火力を延命
「グリーン成長戦略」のさらなる問題点は、石炭火力発電を2050年まで使っていこうとしている点だ。石炭火力は、天然ガスや石油等を燃料とする火力発電よりも多くのCO2を排出するため、最優先で廃止していく必要がある。だが、「グリーン成長戦略」では、CCS(CO2回収・貯留)を付けたり、アンモニアと混焼させたりすることで、石炭火力発電を活用していくとしているのである。
CCSとは、火力発電所などから排出されるCO2を大気中に逃がさず回収して、地中深くなどに封じ込める技術のことだ。だが、CCSは現段階で未完成の技術であり、またアンモニア混焼にしてもCO2排出を減少させるだけでゼロとするわけではない。結局これらの技術を口実に石炭火力発電を延命させるだけではないか、と環境NGOなどは警戒している。
例えば、環境NGOの気候ネットワークは「CCSを含む多くの技術は不確かな上、経済合理性もなく、2030年までの排出削減にはおよそ期待できない。パリ協定に整合させるには2030年には石炭火力をゼロにする必要があるため、本来、石炭火力へのアンモニア混焼やCCSという技術は必要ないはずである。にもかかわらず、これらを前提として、2050年に向けても『火力の利用を最大限追求していく』としたことは、火力利用を延命させようとするものに他ならない。これでは、気候危機への緊急性に対応しないだけでなく、産業・経済の発展にも不安定要素となる」と指摘している。
石炭火力発電について、梶山弘志・経産大臣は昨年7月の会見で「非効率な石炭火力のフェードアウト」を目指すと発言しているものの、日本国内で、現在15基が建設中あるいは計画中である。昨年10月の菅首相の所信表明演説を受けての会見でも、梶山経産大臣は、いつ石炭火力をやめるかについては明言せず、CO2を回収し、プラスチックや化学製品の材料とする技術(CCUS)を活用することに言及するにとどまった。
原発は温暖化対策とはならない
さらに「グリーン成長戦略」には、再び日本のエネルギー政策が原発依存へと向かうのではないか、という懸念がある。昨年10月の菅首相の所信表明演説を受けて、梶山経産大臣は「2030年の20(基)から22(基を動かす)という数値を目指して、再稼働をしていく」と会見で発言している。ところが、日本で運用している33基のうち15基は、2030年には原則40年とされる運転期間を超える。稼働から40年を超えても、原子力規制委員会の審査に合格すると最長60年まで延長は可能だが、老朽原発を稼働させ続けるということは、それだけ事故のリスクが高まるということでもある。
上述の会見で梶山経産大臣は「現時点では、新増設・リプレースというのは想定しておりません」と語っているが、今後、温暖化防止に乗じた原発の新増設等の計画が持ち上がってくる恐れもある。ただ、仮にそうした原発の新増設を行うとしても、原発は温暖化対策とはならない。原発は建設、稼働にまで10年以上かかることが普通であり、一刻の猶予もない温暖化防止において時間がかかりすぎるのだ。