一方、再生可能エネルギーはその普及スピードは早く、電源構成に占める割合は2019年の18.6%から2020年前半で23.1%にまで増加している。これは、2030年の再生可能エネルギーの政府目標(22~24%)に並ぶものであり、政府の予想を遥かに上回っている。原発を再稼働させたり、新増設したりするよりも、再生可能エネルギーの普及に全力を注いだ方が効率的であるし、現実的ということだろう。
電気自動車へのシフトを急げ
日本におけるCO2の排出を部門別に見ると「運輸」は全体の2割弱を占め、2050年のカーボンニュートラルを実現する上で、自動車の脱炭素化は不可欠だ。菅首相は前述の施政方針演説で「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現いたします」と宣言。日本でもついにガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトが始まるのかと思いきや、この「電動車」の定義が曲者なのだ。
国内自動車メーカーの働きかけにより、経産省は「電動車」の定義に、ガソリンエンジンと電動モーターで動くハイブリッド車(HV)も含めることとなった。だが、ハイブリッド車は一般のガソリン車に比べれば、CO2排出は少ないものの、主な動力源としてガソリンエンジンを使用する以上、大幅な排出減は難しい。電動車にHVを含むという方針は、日産を除けば、電気自動車の開発にそれ程熱心ではなかった国内自動車メーカーに猶予を与えるためなのだろうが、日本での電気自動車の普及や急速充電施設などのインフラの整備に遅れが生じる恐れもある。
海外ではHVすらも今後の規制対象となっている。例えば、早くから自動車の低公害化を進めてきた米国のカリフォルニア州では、2035年までに同州で販売される車を全てZEV(無公害車)とするとしており、このZEVにはHVは含まれないのである。さらにバイデン大統領もその政策集で「50万カ所にEV用充電ステーションを設置する」としているので、カリフォルニア州のみならず全米規模でEVの普及が進む可能性がある。
また、イギリスでは2030年にHVも含めガソリンを使用する車は新車の販売ができなくなる。ノルウェーにいたっては、2020年の新車販売で、54%がEVだった。同国では2025年までに全ての乗用車の新車をZEVにする目標を掲げており、順調にその目標に近づいていると言えるだろう。海外メーカーでは、米自動車大手フォード・モーターが欧州で販売する車を2030年までにEVのみとする方針を打ち出している。英自動車メーカーのジャガー・ランドローバーも、2025年までにジャガーブランドの車を100%EV化するとのことだ。このように、世界のEV化の流れはここ1、2年で一気に進んでいる。日本としても、2050年カーボンニュートラルを本気で目指すのであれば、官民ともに戦略の練り直しが必須だろう。
2030年中期目標の設定見直しが必要
そもそも何のためにCO2排出を削減し、脱炭素社会を実現しなくてはいけないのか。 世界平均気温の上昇を1.5度以下に抑えるというパリ協定の目標を達成するには、2050年に向けてCO2排出を削減するといったのんびりした対策ではなく、2030年までの短期間に、いかにCO2排出を半減させていくか、ということが重要なのだ。そうした中で、現在の「2013年度比26%削減」という低い目標は、引き上げなければならない。あと数年で世界平均気温上昇の危険水域である1.5度上昇に達する可能性が約20%存在するとの説もあり、そうしたリスクから考えても「あと30年ある」というような姿勢ではなく、あと数年で脱炭素社会のための基礎づくりを進めていかなければならないのである。そのためには、個人や企業などの自主的な努力に期待するのではなく、CO2排出を規制するための法整備や制度設計が必要であり、温暖化防止策に200兆円を支出するバイデン政権のような大規模な財政出動が日本でも必要だろう。
世界屈指の自然保護団体「WWF(世界自然保護基金)」の日本支部WWFジャパンは「欧州連合やドイツ、フランス、イギリス、カナダなど世界の先進国のように、企業の救済に気候変動に関する情報の開示を求めるなど、グリーン・リカバリー(アフターコロナにおける環境を重視した経済復興)を具体的な施策として打ち出すことは、まさに経済回復と脱炭素化を両輪で進め、日本企業が世界に伍して脱炭素化ビジネスをリードしていくことにつながるものである」(WWFジャパンウェブサイト)と指摘している。
日本では、温暖化対策含め環境問題への取り組みに対し、「経済に悪影響」と見なす傾向があるが、むしろ新たな産業や雇用を生み、投資を呼び込む好循環をもたらしうるのである。今回、不十分ながらではあるが、菅政権が温暖化防止に向け踏み込んだこと自体は、歓迎すべきことだろう。だからこそ、その前進をより確かにするために、既得権益にとらわれず、社会変革を実現する具体的な動きを進めていくべきなのだ。