民主主義って何だろう? 素朴な問いかけに、その理念から歴史や意義を基礎から答えてくれる宇野重規さんの著書『民主主義とは何か』(講談社現代新書)。2020年10月に発刊され、“新書大賞2021 ”第2位にランクインするなど大ヒットし、民主主義を考える書籍ブームの火付け役となった。
私も手にとってすぐ夢中になり、文字通りに民主主義とは何か? を考えるための礎のような1冊として、今もすぐ側に置いている。本を開けば、あちこち赤や青の線が引かれ、付箋が貼られまくり。にもかかわらず、付箋の貼られたページを改めて読み返すと「ああ、そうなのか」と、再発見する。わかっているようでいてわかっていない民主主義。追究してもしても、実態がつかみにくい。おそらく多くの人にとってもそうではないだろうか。民主主義とは何か? 永遠に繰り返したい問いかけだ。
さて、その宇野重規さん(東京大学社会科学研究所教授)と、22年3月22日に「ジュンク堂書店池袋本店」にてオンライン限定のトークイベントを行った。宇野さんの新著『自分で始めた人たち 社会を変える新しい民主主義』(大和書房)の発売を記念してのものだったが、政治も思想も哲学もすべてにド素人、一ライターである私がお相手に? ひたすら恐縮しつつ、それでもあれこれ民主主義について聞いてみたことをギュッと抽出してお伝えしていく(和田靜香)
和田靜香 私は『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)という本を21年の夏に出しました。これは私が生活するうえで困っていることを基に、政治の問題として解決して助けてくれないか? と国会議員の小川淳也さんと対話を繰り返して書いた本で、それを書くときに宇野先生の『民主主義とは何か』を灯台のように頼りにし、迷うと広げては読んでいました。でも、今も民主主義についてわかっているようでいてわかっていないので、どうぞよろしくお願いします。
宇野重規 はい、よろしくお願いいたします。
和田 さて、宇野先生は私からすると民主主義のプロという感じがしますが、先生と民主主義の「馴れ初め」を教えてください。
宇野 難しいですね。僕と民主主義の馴れ初めなんてあったかなぁ……。個人的なことを思い出すと、「日米学生会議」に出たことでしょうか。これは戦前からずっと続く日米学生交流プログラムで、戦争に向かうアメリカと日本をどうにかしようと思った日米の学生たちが集まり、年に1回、ひと月ぐらい一緒に暮らしながら議論するものです。
和田 アメリカで開かれるんですか?
宇野 私が参加した年は、アメリカ開催でした。南部の都市からスタートし、だんだん北上していきました。
和田 旅をしながらの会議なんですね。
宇野 そのときに思ったんですよ。アメリカの学生って民主主義、デモクラシーをちゃんと語れる。それに対して自分は、「学校の教科書では、えーと、直接民主主義と間接民主主義があって。選挙制度は何とかがあって」ぐらいしか語れない。さらに人権なんていうのは、僕たちはいつも「重要ですね。おしまい」にしてしまう。アメリカの黒人の女子学生が自分のファミリー・ヒストリーで語ると、単なる言葉ではなく、そういう理想のために生きてきた歴史を語れるのに。
もちろん今だってアメリカではデモクラシーを本当に実現できているかどうかわからないし、人権が尊重されているとも限らないし、本当に平等かも怪しい。けれど、やっぱり言葉としてかっこいい……少し軽薄なんですが。「重みがあるな」って、そのとき思ったんです。自分はそんな言葉を持っていない。だから、自分の言葉で民主主義を語れるのかとずっと迷ってきて、じつはまだまだ迷っています。
和田 え、宇野先生が迷っているんですか?
宇野 はい。だから『民主主義とは何か』では、自分の信条告白をした感じがあります。今回の本『自分で始めた人たち』のほうが自分としてはなんとなく自信があって、僕のステキな仲間を紹介している感じです。この2冊を書くことで、ようやくここに来て自分なりに民主主義を語れるようになったな、という気がしていますが、まだまだ腹にストンと落ちるような形で民主主義を語れるかっていうと、ちょっと自信がありません。
和田 ステキな仲間を紹介しているというのは、生活に根差した民主主義を語ったという感覚なんでしょうか?
宇野 そうだと思います。僕の専門は、堅く言うと西洋政治思想史。大学の授業で言うと古代ギリシアからスタートし、ホッブズ、ロック、ルソー、といった思想家の政治思想を語ってきて。
和田 『民主主義とは何か』に続々と出てきた名前ですね。
フィンリー
サー・モーゼス・フィンリー。1912年5月20日 - 86年6月23日。アメリカ合衆国出身の歴史学者。専門は古代ギリシア史