集団的自衛権と憲法第9条
憲法第9条を変えようという議論が行われる時に、必ずと言っていいほど出てくるのが、今の憲法が集団的自衛権を認めていないから、という議論です。日本政府のなかで憲法の解釈に責任を負っている機関が、内閣法制局です。法制局は長い間、「第9条が認めているのは、日本自身を守るための固有の権利(個別的自衛権)だけで、他国のために武力を使うことを意味する集団的自衛権は認められない」とする解釈を守ってきました。9条改憲を必要だとする人たちは、「国連憲章で認められている権利なのに、憲法が認めていないのはおかしい。それなら、憲法の規定を変えるべきだ」と主張するのです。そういう人たちは、同盟国のアメリカが攻められる時に日本が何もしないのでは、真の同盟とは言えず、そんな日本をアメリカが守ってくれるはずがない、と主張します。
アメリカを攻める国なんて考えられる?
「確かにそうだ」とうなずく前に、考えてほしいことがあります。世界最強を誇るアメリカに、一体どの国が戦争を仕掛けるでしょうか? たとえば北朝鮮がテポドンをアメリカにめがけて発射すれば、あるいは日本海を航行しているアメリカの軍艦に攻撃を仕掛けたら、次の瞬間に、アメリカは圧倒的な核戦力で北朝鮮を地上から消し去ることは間違いありません。9.11事件でもアフガニスタンを叩きつぶしたアメリカですから、北朝鮮が核ミサイル攻撃などをしたら、アメリカがどんな対応をするか、想像できるでしょう。1941年に日本がアメリカに無謀な戦争を仕掛けた時は、まだ核兵器はなかったのです。だから、当時の日本の指導者は日本全滅という最悪の事態を考えないで、戦争を始める余裕(?) があったのです。核時代の今日では、もうそういうわけにはいきません。広島、長崎の悲惨な原爆体験は、ある意味、世界的に共有されており、金正日といえども、アメリカに戦争を仕掛けるとどんなひどい目に遭(あ)うか、分かっているのです。
アメリカが日本に9条改憲を要求するのはなぜ?
確かにアメリカは、日本に9条改憲を要求しています。しかし、それは、北朝鮮や中国がアメリカに戦争を仕掛けてくるのが怖いからではありません。アメリカがアジアで考えている戦争のシナリオは、台湾が独立に走った時に、その台湾を守るために中国と戦争するというものです。あるいは金正日政権を倒すと決めて始める戦争なのです。その戦争は、日本がアメリカに全面的に協力する場合にのみ可能です。
考えてみて下さい。日本がアメリカの戦争に協力しなかったら、つまり、アメリカ軍に日本を基地として使うことを認めず、アメリカ軍に必要な物資も供給せず、自衛隊による協力も拒んだなら、アメリカは中国、北朝鮮に対する戦争を仕掛けること自体が不可能です。だって、ハワイ、グアム、さらにはアメリカ本土から大規模で本格的な戦争を行うことは、軍事的に不可能だからです。
つまり、アメリカが中国、北朝鮮に戦争を仕掛けることができるための大前提は、日本がアメリカの言うとおりになることです。日本がアメリカの言うなりになるためには、第9条は決定的に邪魔になるのです。だから9条改憲を、ということになります。
これではっきりしたでしょう。9条改憲の真の狙(ねら)いは、アメリカが中国や北朝鮮に戦争を仕掛けることを可能にするためです。集団的自衛権でアメリカを守るため、ということではまったくありません。集団的自衛権とは、まったく無関係なのです。
しっかりした判断力を持ちましょう
自由民主党は、2005年10月28日に新憲法草案を発表しました。憲法第9条第1項には手を加えていませんが、第2項は削除し、第9条の2という新しい規定を設けています。そこでは、「自衛軍」を持つとし、自衛軍は「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる…活動を行うことができる」と定めています。どこにも集団的自衛権という言葉は出てこないのです。「国際協調」とは「対米協調」のことです。自民党は、アメリカの戦争政策に全面的に協力する国に日本を変えようとしています。私たちには、物事を正しく見極める眼力が求められています。憲法「改正」を認めるかどうかのポイントは、集団的自衛権を認めるかどうかなどではなく、アメリカの危険な戦争政策に従う国になっていいのか、ということです。私たちの生死に直接関わる問題です。真剣に考えて判断しなければならないことが、分かっていただけると思います。