フランス、イギリス、ドイツでは
2008年1月現在、EU(欧州連合)加盟27カ国のうち15カ国で146基、1億3952万kWの商業用原子力発電所が運転中である。ただし、エネルギーの中での原子力の位置づけは国によりさまざまである上、安全性、放射性廃棄物、核拡散の脅威などに関する懸念も依然として残る。フランスはEUの中で最大の原子力発電設備容量を有しており、59基、6602万kWが運転中である。07年5月に就任したサルコジ大統領は、自国での新規建設を目指すだけでなく、豊富な技術と経験を生かして海外市場のさらなる拡大を目指し、中東諸国などを訪問している。
その成果もあって、フランスは07年にリビア、モロッコ、アルジェリアの各国との原子力協力に合意した。08年1月にはインドを訪問し、民生用原子力分野での両国の協力協定について、シン首相と共同声明を発表している。
イギリスでは、1990年代に電力業界の再編と民営化が行われた影響もあって、原子力発電所の新規建設は90年代以降行われておらず、現在運転中の19基、1195万kWの大半は、2010年以降、順次停止される見通しである。
03年のエネルギー白書では原子力は有力選択肢とされなかったが、その後、天然ガス資源の枯渇への懸念、ガス需要の急増などもあり、07年のエネルギー白書においては、地球温暖化対策とエネルギー安定供給の観点から、原子力発電は重要であると位置づけられた。イギリス政府は18年ごろからの導入を目指し、現在新設準備中である。
ドイツはEUの中では2番目に多い2137万kWの設備容量を有している。1990年代に、今後の新規電源として原子力を選択せず、再生可能エネルギーに注力していくことを軸とした脱原子力政策が提唱され、2000年、ドイツ政府は脱原子力を基本方針とする「原子力コンセンサス合意書」を発表した。
しかし近年、とくに06年のロシア-ウクライナ間天然ガス供給途絶問題を契機として、エネルギー安全保障および地球温暖化ガス排出量削減には原子力の利用が不可欠であるという認識が広まり、脱原子力政策見直しの議論が続けられている。
その他EU諸国の原子力政策
ドイツと類似の脱原子力政策を掲げてきたのが、スウェーデンとベルギーである。ベルギーでは03年、脱原子力法が成立し、運転開始後40年を経過したプラントが順次廃止されることとなった。しかしその後、早くも04年にはエネルギー大臣が同法の見直しに言及し、06年11月には政府諮問の委員会が原子力オプションの維持を勧告している。
スウェーデンでは06年、1980年代に国会で決議された脱原子力政策を、「既設廃止も新設も2010年まで行わない」とする方向に修正がなされた。1999年と2005年に、脱原子力政策に基づいて、2基の原子炉が閉鎖されている。スウェーデン政府は、エネルギー安定供給と電源多様化の観点から、再生可能エネルギー、とくに風力発電への投資に注力している。
フィンランドではガスのロシアへの依存度を低減する必要もあり、原子力の増設に注力している。07年、国内5基目の170万kW原子炉が着工し、12年の営業運転開始を目指し建設中である。
EU諸国の中には、旧ソ連(現ロシア)から技術支援を受けて原子力導入をしてきた国が数カ国あり、その中には、旧ソ連時代に開発されて安全性に問題がある炉の停止をEU加盟の条件とされたブルガリアのような国もある。しかし同国では近隣国への電力輸出が貴重な財源となっていることから、ロシアの最新型原子炉を採用した新設が計画されており、07年12月、EC(欧州委員会)がこれを正式に承認した。
現在、商業用原子力発電所を有していない国でも、隣国から原子力発電による電力を輸入したり、近隣国の新規建設プロジェクトに参画したりする形で、間接的に原子力を利用しているといえるイタリアやポーランドのような国もある。
イタリアは、かつて進めていた原子力開発を、1980年代に国民投票で凍結した経緯があるが、2008年5月、新政権発足後、原子力開発再開を示唆する発言も閣僚から出ている。
多様な原子力政策
EU各国の原子力政策は、その背景の多様さからさまざまであるが、近年では原子力発電の位置づけやさまざまな課題に関する議論が、国境を越えて行われている。07年3月、EU首脳会議において、地球温暖化対策とエネルギー安定供給に関する原子力発電の役割が議論され、原子力のメリットとデメリットについて多角的に検討するとともに、安全性、放射性廃棄物、核拡散防止などのさまざまな課題解決を図っていくこととなった。
エネルギー資源の高騰、ロシアなど供給国との関係、地球温暖化対策などさまざまな要因から、EU諸国は原子力政策の舵(かじ)を大きく切り返そうとしている。