オバマ大統領のプラハ演説
アメリカのオバマ大統領は、2009年4月5日にチェコのプラハで「21世紀における核兵器の将来」について演説し、「核兵器のない世界における平和と安全保障を追求するというアメリカの約束」を、明確にかつ確信をもって述べた。また、冷戦は終結したが多くの核兵器が残っており、世界的な核戦争の脅威は消えたが、核攻撃の危険は高まっていると現状を分析し、「アメリカは、核兵器を使用した唯一の国として行動する道義的責任がある」と述べた。アメリカ大統領が道義的責任に言及したのは初めてであり、歴代大統領とは大きく異なり、核軍縮へのきわめて積極的な姿勢を示している。
米ロの核削減への取り組み
冷戦時には7万発存在した核兵器も、今では2万3000発程度まで削減されている。そのうち長距離の戦略核兵器は、1991年に署名され94年に発効した第1次戦略兵器削減条約(START1)により、2001年までにアメリカ、ロシアそれぞれ6000に削減された。この条約は09年12月に失効することになっており、米ロはそれに続く条約を作成する必要に迫られていた。オバマ大統領の登場とともに核削減が前面に押し出され、09年4月1日の米ロ首脳会議で新たな条約を09年中に作成することが合意され、7月6日の米ロ首脳会議で条約の基本的枠組みとして以下のことが合意された。
(1)それぞれの戦略核弾頭を1500~1650に削減する、(2)それぞれの戦略核運搬手段を500~1100に削減する、(3)削減は7年以内に実施する、(4)新条約は効果的な検証措置を含む。
この原則に従って現在、新条約が交渉中である。この条約の削減は小幅であるが、核兵器のない世界に向けての第一歩として評価できるものであり、引き続き削減の第2段階の交渉の開始が期待されている。
核不拡散への取り組みと現状
核不拡散条約(NPT)の規定では、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国は、核兵器国として核兵器の保有を認められている。また条約上、核兵器国は核軍縮の交渉を誠実に継続する義務を負っているが、これまで核軍縮に大きな進展は見られない。NPTに加入せずに核兵器を開発した国として、インド、パキスタン、イスラエルがあり、北朝鮮は03年にNPTから脱退して核実験を実施した。
現在の核配備数は、アメリカ2702、ロシア4834、イギリス160、フランス300、中国186、インド60~70、パキスタン60、イスラエル80、北朝鮮10以下と推定されている。イランはウラン濃縮を大規模に進めているが、まだ核兵器の製造には至っていない。
北朝鮮の核問題については、05年9月の6者協議の共同声明において、朝鮮半島非核化を目標として、北朝鮮は核兵器を放棄し、アメリカは北朝鮮を攻撃しないことを約束し、米朝、日朝の国交正常化を進めることに合意した。しかし北朝鮮は06年10月に核実験を実施した。その後ブッシュ政権は北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したが、北朝鮮は核無能力化を行わなかった。
オバマ政権誕生後、北朝鮮は09年4月にミサイル発射を行った。国連安全保障理事会議長声明による批判に対し、それは人工衛星の打ち上げであると反論し、6者協議からの離脱を表明し、さらに翌5月に2度目の核実験を実施した。
核不拡散に関する今日の重大な問題は、核兵器または核物質がテロリストの手に入るのをいかに防止するかということで、まず各国が所有する核兵器および核物質の厳重な管理が要請されている。さらに核の闇市場を通じてそれらが移転されるのをいかに防止するかが緊急の課題で、不審な船舶を臨検するなどさまざまな措置が取られている。
今後の課題
オバマ政権になり「核兵器のない世界」に向けた動きが活発になり、ゴールとしての「核兵器のない世界」も明確になった。ブッシュ政権期には核軍縮はほとんど進まなかったが、オバマ政権になりさまざまな進展が見られる。米ロ間の戦略核兵器削減交渉の進展についてはすでに述べたが、さらに「オバマ効果」として以下の二つがある。一つは、2010年5月に開催されるNPT再検討会議の議題が、09年5月の準備委員会で合意されたことである。前回の05年再検討会議では、会議が始まっても議題に合意できず、会議は空転し、4週間の会議の第3週半ばになって議題が合意されたが、実質的議論は行われず会議は失敗した。
もう一つは、唯一の多国間軍縮交渉機関であるジュネーブの軍縮会議が、09年5月に兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に合意したことである。軍縮会議は包括的核実験禁止条約(CTBT)を交渉して以来、13年にわたって交渉の開始に合意できなかった。
ロシア、イギリス、フランスも核削減の方向に向かっているが、中国は核戦力の増強が疑われており、透明性が不十分なこともあり、今後の中国の動きが課題となっている。また北朝鮮やイランの核拡散問題も早急に解決される必要がある。さらに核テロを防止するためのいっそうの努力が必要であろう。
「核兵器のない世界」の実現のためには、核軍縮の追求と並行して、国際社会の構造をかなり大幅に変更する努力も必要である。それは武力行使の禁止が厳格に守られ、紛争の平和的解決の制度が整えられ、違反に対しても国連がもっと厳格な制裁を科すことのできる国際社会の追求である。