自立を支援するマイクロファイナンス
マイクロファイナンスとは、カンボジアやバングラデシュなど、開発途上国の銀行融資を受けられない人々を対象とした、各種金融サービスの総称である。小口(micro)の融資(credit)=マイクロクレジットが代表的サービスだが、貯蓄、保険なども扱っている。マイクロファイナンスを行う組織を総称してマイクロファイナンス機関(MFI Micro Finance Institution)という(政府認可を得た団体のみをMFIと呼ぶ場合もある)。これらMFIは、営利企業、政府組織、非政府組織(NGO)などの形態をとる。最も多いのは、NGOからスタートした組織が成長する過程において、営利企業の要素を取り入れながら、政府からの許認可を取得していくケースである。
国にもよるが、平均的な貸出金利は30%前後である。そのため、担保もなく貧しい人々にお金を貸しても返ってこないのではないか、という疑問を持つ人は少なくない。しかし、実際にはマイクロファイナンスの返済率は平均して95%以上と非常に高い。高い返済率の理由には主に以下の三つが考えられている。
一つは、コミュニティーによる動機付けや監視だ。返済ができない場合、地元のコミュニティーにも迷惑がかかるため、借り手はその村や町で暮らしにくくなってしまう。だから、借り手は必ず借金を返済しようとする動機を持ち、周囲のコミュニティーはそれをしっかりとモニターするようになる。
もう一つは、貸し手であるMFIの情報収集力の高さだ。豊富な経験に裏付けられたMFIは、借り手の信用力調査のための様々なノウハウを有している。融資審査を担当するローン・オフィサーは、数十あるチェックリストを用いて相手の返済能力を調査する。チェックリストの項目は、職業に関するものから、住宅の屋根の材質が何でできているか等の開発途上国特有の項目まで様々だ。
最後の一つは、経済学において「資本の限界生産性」と呼ばれるものだ。経済が発展途上にある国では、新たな設備投資が相対的に高い生産性をもたらすことが知られている。
マイクロファイナンスは貧困者への「援助」ではない。MFIが行う貸付は、単なる「チャリティー」ではなく、ビジネスだ。だからこそ、マイクロファイナンスは高い持続可能性を有している。
そして何より、貧困の削減のためには、貧困にある人自身の自立への意志が最も重要である。従来の「援助」が得てして「援助依存」を生み、かえって自立をはばみがちだったのに対し、マイクロファイナンスは自立への意志を支援することができるという点に特徴がある。
貸付が主だが預金や保険も
マイクロクレジットの貸付対象となるのは個人、5人程度のグループ、10人以上のグループなど、様々である。顧客の資産やビジネスの規模から、推定される返済能力や必要な資金に応じて貸付金額が設定され、その金額は数千円程度から数十万円まで幅広い。借り手の資金使途の多くは、ビジネスのための材料・道具の購入である。たとえば、地元の民芸品を作るための材料、タクシーを営業するための車、農業のための有機肥料などだ。
災害や冠婚葬祭、育児・教育に関する出費のための借り入れも存在する。ただ、MFIの資金使途をビジネス関連に限定するべきか否かについては、議論がある状況だ。
金利の決定要因には、1単位の新規の資本投入に対する収入の増加率(資本の限界生産性)はどうか、人口密度はどうか(低いとMFIの経営にかかるコストが高くなる)、などのマクロ要因と、MFIの操業費用や顧客の信用力などのミクロ要因がある。
貸付サービスのほか、大手のMFIには預金サービスを提供しているものが多い。借り手がMFIの小口の株主となる場合もある。天災に対する損害保険や、死亡保険を提供しているMFIも存在するが、これらの保険をビジネスベースで成立させていくためには、より多くの顧客を有することが課題となっている。
営利追求と貧困削減の両立
マイクロファイナンスが発展するに従い、借り入れを行える人の数は増えた。しかし、それでも借りることができない貧困層は存在する。そのような最貧層に対し、貸付でなく資金援助を行うMFIも存在する。この支援活動は、慈善活動であると同時に、将来を見据えた投資活動でもある。支援を受け、自立を始める貧困層が、将来、そのMFIを利用する可能性は高いためだ。格差を抑制しながら実現される経済成長と、MFIの利益は一致させることができる。
しかし、現実は決してバラ色ではなく、ノルマ達成のための無理な貸付や、執拗な取り立てを行う悪徳金融機関も存在する。MFIが過度に多い国ではこういった問題が生じやすい。政府当局による適切な法規制が、これらの問題を回避する上で重要である。
マイクロファイナンス投資ファンド
マイクロファイナンスに投資するマイクロファイナンス投資ファンドは、投資リターンのみならず、貧困からの自立の長期的支援も目的としている。MFIにとって貴重な資金調達源であり、金融危機下でも、おおむね利益を挙げている。日本にはこれまで、広く民間から募集するマイクロファイナンス投資ファンドが存在しなかった。特定非営利活動法人Living in Peace(リビング・イン・ピース LIP)が企画し、ミュージックセキュリティーズ株式会社が運営するマイクロファイナンス投資ファンドが、2009年9月に日本で初めて販売されるようになった。出資されたお金は、カンボジアのMFIであるSamic Limitedに投資される。
世界には100以上ある、マイクロファイナンス投資ファンドの日本第1号が、さらなる発展をとげられるかどうか。今後の推移が注目される。