核兵器廃絶への歴史的転換点
これまでヒロシマは、人類最初の被爆体験を原点に、核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を訴え続けてきた。しかし、今なお地球上には2万3000発を超える核兵器が備蓄・配備されており、「すべての国が核兵器を持つ」のか、「核兵器のない世界」をつくるのか、という選択を迫られている。一方、2009年4月、アメリカのオバマ大統領がチェコのプラハで行った「核兵器のない世界」に向けた演説などに象徴されるように、世界は今まさに核兵器廃絶に向けて歴史的な転換点に差しかかっている。
核兵器廃絶「2020ビジョン」の展開
核兵器廃絶の流れを確実なものとするために、広島市は、国内外の3100を超える都市が加盟する平和市長会議やこれら加盟都市の市民、世界のNGO等と連携して、2020年までの核兵器廃絶を目指す「2020ビジョン」に取り組み、その具体的道筋を示す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」の2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議での採択を目指し、様々な活動を世界的に展開している。現在、この議定書には国内外の多くの都市から賛同を頂いている。2020年が大切なのは、一人でも多くの被爆者と共に核兵器の廃絶される日を迎えたいからであり、私たちの世代が核兵器を廃絶しなければ、次の世代への最低限の責任さえ果たしたことにはならないからである。
09年8月に長崎市で開催した第7回平和市長会議総会では、NPT再検討会議に向けた行動計画を策定し、同年10月の国連総会を手始めに、平和市長会議の加盟都市の増加、さらに各種の国際会議等の場を通じて理解と賛同を求めるなど、議定書採択に向けて全力を尽くしていく。
「オバマジョリティー」の提唱
アメリカのオバマ大統領はプラハで行った演説で、核兵器を使った唯一の国として核兵器廃絶のために努力する「道義的責任」があることを明言し、「核兵器は廃絶されることにのみ意味がある」と主張する世界の大多数の意見の正しいことを裏書きしてくれた。それに応えて私たちには、オバマ大統領を支持し、核兵器廃絶のために活動する責任がある。09年5月、NPT再検討会議の準備委員会におけるスピーチでは、核兵器のない世界を目指す世界の多数派の市民を「オバマジョリティー」と呼ぶことを提唱した。
「オバマジョリティー」を合言葉に、力を合わせ、2010年のNPT再検討会議での「ヒロシマ・ナガサキ議定書」の採択、そして2020年までの核兵器廃絶に向けた国際世論をさらに大きくしたいと考えている。
市民の力で問題は解決できる
国際的な世論が大切なのは、21世紀は市民の力で問題を解決できる時代だからである。世界中の市民そして都市、さらに志を同じくする国々(有志国)が、協力して人類的な課題の解決に貢献している事例が様々な分野で生まれている。例えば、市民に対し無差別な被害を与えていた対人地雷の問題については、NGOと有志国の協力により、1999年に対人地雷禁止条約が発効した。また、クラスター爆弾も、戦闘後に不発弾の形で残留し市民に被害を与えていることが大きな問題となっていたが、同じくNGOと有志国の主導により、2008年5月にクラスター爆弾禁止条約が合意された。さらに、貧困に苦しんでいた市民が、ムハマド・ユヌスが創設したグラミン銀行からの低利無担保の融資により事業資金を確保し、事業を成功させるなどの事例もある。
このように、大多数の地球市民の意思を尊重し市民の力で問題を解決する地球規模の民主主義が今、正に発芽しつつある。その芽を伸ばし、核兵器廃絶というさらに大きな問題を解決するためには、国連の中にこれら市民、そして都市の声が直接届く仕組みをつくる必要がある。例えば、これまで戦争等の大きな悲劇を体験してきた都市100、人口の多い都市100、計200都市からなる国連の「下院」を創設し、現在の国連総会を「上院」とすることも一案である。
国連に200都市からなる「下院」創設が必要なのは、核兵器の攻撃目標が都市であり、市民の生命・財産・福祉を守るために都市が意思決定に加わらなくてはならないからである。
「核抑止論」あるいは「核の傘」といった権威に縁取りされた言葉を盾に、罪のない子どもを含めた市民を人質にとることによって国際政治が動いている異常さに、私たちは慣れてしまっている。改めて、このようなレトリックの異常さに気づくことから始めたい。
CANTプロジェクトの推進
そのため、広島市と平和市長会議では、「都市が核攻撃の目標となることは容認できない」というメッセージを署名活動によって発信する「都市を攻撃目標にしないこと、そして、『ヒロシマ・ナガサキ議定書』に基づく各国の誠実な交渉義務の履行を求めるプロジェクト(Cities Are Not Targets CANTプロジェクト)」を世界的に展開し、子どもたちをはじめ、市民が暮らす場所の象徴である「都市」が核兵器の標的となることの非人道性を訴え、核保有国に対し政策変更を求めている。この署名は核兵器廃絶を願う人々の意志を示し、オバマ大統領の「核のない世界」を進める追い風となる取り組みであり、平和市長会議のホームページでオンライン署名も行っている。
世界を動かし、人類の未来を決定していくのは、この地球に生きる私たち一人一人である。皆が力を合わせれば、核兵器廃絶は実現できる。共に力を尽くし、行動したい。
「私たちには力があります。私たちには責任があります。そして、私たちは『オバマジョリティー』です。力を合わせれば核兵器廃絶はできます。絶対にできます。」(2009年広島市「平和宣言」より)