韓国経済を支える四大財閥
韓国の四大財閥、サムスン、LG、現代(ヒュンダイ)(自動車)、SKはその傘下に合計40の上場会社を持つ。グローバル市場で現在、日本のライバル企業と競争を繰り広げているサムスン電子、LG電子、現代・起亜自動車、などが四大財閥のそれぞれの旗艦企業である。四大財閥は、韓国の全上場企業の総売り上げの50%、総純利益の60%を占める。サムスン・グループだけで全利益の30%超である。大財閥が韓国経済を動かしているのだ。韓国の財閥(企業グループ)とはなにか。大中小を問わず韓国の企業のほとんどは、ファミリービジネス(家族企業)である。上記の四大財閥はすべて家族企業で、創業者一族が所有・経営している。オーナーが総帥として君臨して経営方針を指し示し、その下で、多くの専門経営者が業績責任を負っている。つまり、日々の経営オペレーションでは、所有はしていないが、優秀な専門経営者が群雄割拠して、グループ各社の経営を有効に実践しており、彼らは総帥への強い忠誠心を持っている。
「韓国の財閥は、日本の戦後の系列よりも、戦前の財閥に近い」(李漢九『韓国財閥形成史』、1999年)とされるが、一方では違いもはっきりしている。韓国では、創業者一族(家族・親戚)が所有と経営を同時に完全に掌握するトップダウンの中央集権的経営スタイルである。経営の権威(プレステージ)と権限(パワー)の両方をオーナーが集約して持っている。それに対して、日本のかつての財閥は、「オーナーの権威と経営者の権限が機能分割されていた」(柳町功「韓国財閥におけるオーナー支配の執拗な持続」、松本・服部編著『韓国経済の解剖』2001年所収)。
韓国財閥の企業統治構造
サムスン・グループでは、1987年創業者の故・李秉●(イ・ビョンチョル ●は吉が二つ)から三男で現総帥の李健煕(イ・ゴンヒ)氏(68歳)へ、グループ全体の統治の権威と権限が承継された。そして2010年12月に李健煕氏の長男李在鎔(イ・チョエン)氏(43歳)に、その権威と権限が承継されることが確実になった。三代にわたる創業家一族での承継である。サムスン・グループの統治構造を、循環的出資(クロスホールディングス。系列会社同士で株を持ち合うこと)で説明する。
グループの実質的ホールディングカンパニーは非上場のサムスン・エバーランドで、李一族が45.5%を所有している。この非上場企業が基点になって、サムスン生命、サムスン電子、サムスン・カードの三大中核会社がお互いの株を持ち合っている。そして、李健煕氏がサムスン電子の会長で、息子の李在鎔氏が社長である。李一族は、世界最大の電子・電気企業であるサムスン電子を統治することで、サムスン・グループ全体も統治できる構造になっている。
他の財閥もサムスンと同様に創業者一族が旗艦会社を所有し、循環的出資を通してグループ全体を統治している。創業者一族による統治承継は、LG、現代、SKでも完了・進行している。より拡大してその他の主要財閥を見ても、ロッテ、CJ(総合食品)、現代百貨店、愛敬(エギョン)(日用品・百貨店)、農心(ノンシム)(食品)、韓火(ハナ)、斗山(トゥサン)など創業者一族での経営承継が既に完了、または、進行している。これが韓国式企業統治である。
韓国式企業統治の強み
韓国式企業統治を、筆者は、いくつかの問題はあるにせよ、「有効な企業統治」だとポジティブに評価している。その理由を述べる。現在の四大財閥の総帥はすべて二代目であるが、彼らが就任してから現在までに、すべてのグループの時価総額が急上昇している。サムスン・グループでは、24年間(1987~2010年)で140倍(140兆ウォン)である。現代自動車グループは10年間(2000~10年)で5倍(40兆ウォン)、LGグループは15年間で10倍(63兆ウォン)、SKグループは12年間で8倍(60兆ウォン)である。
この成功をもたらしたオーナー経営の共通した強み・利点は4点である。(1)総帥が血脈の正統性から生じるカリスマ的求心力を持っている(オーナーへの高い忠誠心)、(2)トップダウンのスピーディーな戦略意思決定ができる(R&D、生産、マーケティングなど)、(3)オーナー直属の強力な戦略構築組織が機能している(参謀本部に相当)、(4)全世界に配属しているグローバル人材が権限の委譲を受け、文化の違いを乗り越えて現地目線で経営マーケティングを実践する(グローバル戦略の現地化)。収益性も高い。サムスンの例では、現在4300人前後のグローバル人材(地域専門家)を擁している。
急速・急激に変化する世界の政治、経済、社会文化の変化を先取りする、もしくは変化にスピーディーに対応する能力、連続して大型投資ができる財務力など、韓国企業の強さが際立っているが、その強さの源泉がここにある。とくに、自動車、電気、造船、鉄鋼などで韓国企業は、日本勢を追い抜き、または、追い上げている。
日本企業が、韓国勢に対抗するには、(1)それぞれの業界で過当競争を止め、業界を再編成して2~3の企業に絞り、グローバル寡占競争のリーダーになる、(2)高収益を生む技術経営力(売れる商品の開発とコストリーダーシップ)を習得する、(3)これまでの日本からの高い目線ではなく現地対応のビジネスモデルに転換する、(4)組織と人材のグローバル競争力を高める、(5)グローバルなブランド力を高める、の五大戦略の実行が必要である。
財閥統治に死角はあるか
財閥統治には、これまでも「業績の透明性と経営の倫理性の両方で、身だしなみをきちんと整えるべき」との批判が多い。財閥は、社会資本である人材、資金、世襲を容認する文化などを利用して成功した公共財なのだから、「王朝」のように特権と秘密のベールで自身とそのファミリーを神格化・不可侵化してはならない。また国民に対して経営内容や経営承継の透明化・公開性・法令順守を率先して範を示すべきである。事実として、サムスンや現代のグループ経営権の承継に際し、株式譲渡の手続きに不正があったと認定された。韓国財閥は、一方では世界での評価と成長性、売上高や利益性などで経済合理的に評価されるが、他方ではその品格・道徳性を、稼いだ金の使い方・社会への還元の仕方で評価される。前者の点で、サムスンやLGなど大財閥の人気は高いが、同時に後者の点では不人気度も高い。