サルコジへの不満が勝利の要因
2012年5月6日にフランスで行われた大統領選挙の決選投票で、社会党のフランソワ・オランド(57歳)が51.63%の票を獲得し、現職のニコラ・サルコジ大統領(得票率48.37%)を破った。社会党の政権獲得は、フランソワ・ミッテラン以来31年ぶり、第二次世界大戦後2度目。オランドは社会党の書記長を務めたことはあるが、サルコジと異なり閣僚を務めた経験はなく、どちらかといえば地味な人物である。そのオランドを、なぜフランス国民は戦後7人目の大統領に選んだのだろうか。最大の理由は、多くのフランス人がサルコジの政策について強い不満を抱いていたことである。オランドの勝利は、サルコジに対する「ノン」だった。つまりオランドが積極的に選ばれたわけではなく、サルコジに対する反感が地味な政治家を大統領の座に押し上げたのだ。
派手だが実績をあげられなかったサルコジ
保守党(国民運動連合〔UMP〕)に属するサルコジは、「小さな政府」を目標にして、公務員、特に教員の数を大幅に削減したほか、年金支給年齢を引き上げるなど、新自由主義的な政策を実行した。「もっと働こう」をモットーにする彼の政策は、03年以降、失業者への給付金や公的年金を減らし、健康保険の国民の自己負担を増やすことによって、企業の競争力を改善したドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相の政策に似ている。その一方でサルコジは派手なライフスタイルで知られた。たとえば07年の大統領選に勝った晩には、パリの高級レストラン「フーケ」に財界の友人たちを招いて祝賀パーティーを開いたり、大統領就任後に離婚して元ファッションモデルと再婚したりした。
だがサルコジ政権は大した実績をあげることはできなかった。その失政は、様々な経済指標にはっきり現れている。隣国ドイツが11年に貿易黒字を増加させたのに対し、フランスの貿易赤字は戦後最悪の水準に達した。
フランス労働省によると、12年3月の失業者数は約312万人。11カ月間連続で増加した。ドイツの失業率が10年から低下する一方で、12年4月に300万人の大台を割ったのとは対照的である。11年のフランスの失業率は、ドイツより3.6ポイント高い。パリをはじめとする多くの大都市では不動産価格が高騰し、貧富の差が拡大している。
国民には緊縮政策を押し付けながら、自分は裕福な友人のヨットに乗って地中海でのバカンスを楽しむサルコジに、国民は怒りを爆発させ、「Le changement maintenant(今こそ変革を)」というスローガンを掲げたオランドを選んだ。有権者はオランドの方が地味でも、社会の不平等を減らすような政策を取ってくれると期待している。
経済成長も目指すオランド
オランドは派手好きのサルコジとの違いを際立たせるために、「自分は“普通の”大統領になる」と強調し、社会の格差を減らすための政策を取ることを選挙期間中に約束した。たとえばオランドは、サルコジが引き上げた年金支給開始年齢を元に戻し、深刻化する若年失業者対策として、政府予算により15万人分の雇用を創出する。
さらにサルコジが行った富裕層に対する減税措置を廃止し、年収が100万ユーロ(約1億円)を超える市民に対する最高税率を現在の41%から75%に引き上げる予定。またサルコジは大統領就任直後、自分の報酬を170%引き上げて有権者たちを驚かせたが、オランドは大統領の報酬を30%減額した。
オランドの勝利は、サルコジが模範としてきたドイツ流の緊縮政策に対して、フランスの有権者が示した拒否反応の表れでもある。ユーロ危機との戦いの中で、「メルコジ」というあだ名を付けられるほど、サルコジはドイツのメルケル首相の緊縮路線に理解を示してきた。これに対し、オランドは「緊縮政策だけでは、ギリシャやスペインのように不況が悪化するばかりだ。財政赤字や債務を減らすだけではなく、政府の財政出動によって経済成長を促すことも重要だ」と主張。メルケルに対して、緊縮に重点を置いたユーロ圏再建策の見直しを求めている。
新大統領が直面する極右のプレッシャー
オランドが経済成長を重視する背景には、フランスの有権者が抱く強い不安がある。その不安感は、彼らが大統領選挙の第1次投票で示した行動にはっきり表れている。4月22日の第1次投票では、多くの有権者が過激政党に票を投じた。たとえば極右政党フロント・ナショナール(FN)は、18.03%の得票率を記録。これは前回の選挙での得票率のほぼ2倍である。
党首のマリーヌ・ルペンは「反EU」、「反グローバル化」だ。フランスのユーロ圏からの脱退とフランの再導入、国境検査とヨーロッパ諸国間の関税の復活を求めている。彼女は産業の空洞化、移民流入、治安の悪化をフランスが解決しなければならない緊急の課題だと訴えることによって、民心をつかんだ。
ある世論調査によると、ルペンを支持する労働者の比率は、29%に達した。労働者の間ではFNへの支持率が最も高いのである。工場労働者は、生産施設の国外移転を最も脅威に感じている。つまり、産業の空洞化で自分の職場がなくなるかもしれないと不安を募らせている労働者が、極右政党に票を投じたのだ。サルコジの第1次投票での得票率は27.06%で、オランドの得票率(28.63%)を下回った。現職の大統領の得票率が第1次投票で対立候補のそれを下回ったのは、戦後フランスで初めてである。
ちなみに左派党から立候補し、第1次投票で約11%を確保したジャン・リュック・メランションも、欧州通貨同盟の大幅な改革を求めている。FNと左派党の得票率を合計すると、約29%。つまり、フランスの有権者の30%近い人々が、「反ユーロ勢力」を支持しているのだ。このことはオランドにとって大きなプレッシャーとなる。
オランドが5年後に大統領の椅子を守れるかどうかは、彼が経済成長の実現や失業率の削減により、国民の不満を和らげることができるかどうかにかかっている。