自衛隊は即座に撤退させる。でも、撤退だけだと日本の貢献がゼロ、外交問題になるので、代わりに100人の機動隊員を送るのです。文民警察であれば、警察権の行使としてどんなに武器を使っても、9条と何ら矛盾しない(笑)。実際、今、文民警察部門に「Formed Police Unit」を出すのがトレンドになっているのです。自動小銃で武装した機動隊です。現代PKOでは、これが「駆けつけ警護」の主体になっているのです。
あとは、非武装の軍事監視団。僕は、これこそ日本の自衛隊の「お家芸」にするべきだと前から言っています。
「平和国家」のイメージを生かすために
布施 以前に伊勢崎さんのご著書で、アフガニスタンとパキスタン国境上の監視役として非武装の自衛官を常駐させたらどうかという提言を読んで、「憲法9条」を持つ日本らしい平和への貢献だなと思いました。実際に今、軍事監視団はニーズがあるのでしょうか。伊勢崎 今ほどニーズがある時はないでしょう。軍事監視団は、多国籍の将官クラスの軍人が非武装で敵対勢力の懐の中に入り込み、敵対勢力との交戦を未然に防ぐべく信頼醸成を進めるのです。
PKOのミッションでは必ず軍事監視団が存在します。もちろん南スーダンにもあります。PKO全体が好戦的になってきた中で、敵対勢力が唯一、撃たれる心配をしないで対話ができるのが軍事監視団です。これをやるには中立性が非常に重要なので、利害関係のある周辺国ではできません。日本はこれまで、カンボジアとネパールの監視団に非武装の自衛官を派遣してきました。でも、日本ではメディアも誰も拍手してあげないから話題にならない(笑)。
PKFと違って国境を越えて活動できるのも軍事監視団の特徴です。あの辺だと南スーダンと中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国が3大PKOホットスポットになっています。国連はあれを一つの地域として考えています。そもそも、あの辺の国境なんて、植民支配で勝手に引かれたものです。民族は国境を跨(また)いでいるのです。ほとんどの武装勢力は、部族ごとのまとまりがある。国境を越えて活動しているのです。だから、PKOの中で唯一その権限のある軍事監視団の要員が、頻繁に国境を行き来して、交戦予防と信頼醸成のために働くのです。
そもそも国連は紛争を防ぐためにあり、紛争解決のために武力を行使するのは最後の手段です。軍事監視団は、「平和国家」としてのイメージを生かして紛争の予防や仲裁などに貢献できる、最も日本に向いていて存在感を示せる活動だと思います。
国際人道法
戦時において戦争の方法や手段を制限し、文民や負傷した戦闘員などの人道的保護を確保するための条約と慣習法の総称。赤十字国際委員会の呼びかけで成立した1949年のジュネーブ諸条約と1977年の二つの追加議定書、2005年の第3追加議定書などからなる。
PKO派遣5原則
日本の自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加するとき、満たさなければいけない条件。(1)紛争当事者間で停戦合意が存在すること、(2)受け入れ国や紛争当事者による受け入れ同意が存在すること、(3)特定の紛争当事者に偏らず、中立的立場を厳守すること、(4)これらの要件が満たされなくなった場合、撤収できること、(5)武器の使用は要員などの防護のための必要最小限に限ること、の5つの原則。1992年に成立した「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(国際平和協力法)に定められている。