
朝鮮戦争で生まれた秩序が今も続く
布施 私は、「対米従属」が日本のいろいろな問題の根底にあると思っています。敗戦後、国土が焦土になって経済もボロボロになった中で朝鮮戦争が始まり、アメリカは介入軍(いわゆる「朝鮮国連軍」)の司令部を東京に置きました。アメリカは占領中の日本をフルに使って、朝鮮半島で戦争をしたわけです。日本にも兵站(へいたん)で協力を求め、軍需物資の生産からトラックや戦車の修理まで拡大していき、「朝鮮特需」が生まれました。アメリカの戦争に全面協力することで儲かる。そうしたうまみを日本は知ってしまったわけです。
日本の対米従属を固定化したのが、朝鮮戦争のさなかに結ばれた日米安保条約です。日米安保条約の目的は、一つは日本の防衛。そしてもう一つは、極東の平和と安定を維持するという、朝鮮戦争を念頭においたものでした。つまり、朝鮮戦争や将来起こるかもしれない極東地域での戦争で、アメリカが日本を拠点として利用できるようにしたのです。今日まで日本政府が外交・安全保障の基軸としている日米安保体制と、朝鮮戦争や朝鮮半島の南北分断というのは、実はセットなんです。
徐 現在でも朝鮮戦争が終わっていないために、日本国内の7つの基地・区域を朝鮮戦争の国連軍が使用できるようになっていますね。南北分断というのは、アメリカをはじめとする周辺関係国にとって「終わってはならない」強固な秩序になっているのではないかと思います。
布施 朝鮮戦争が正式に終わっていないことを一つの口実にして、アメリカは日本におけるさまざまな軍事的特権を維持しています。朝鮮戦争が終結し、朝鮮半島が南北統一をして平和になってしまうと、それらの特権や日本への米軍駐留を正当化する根拠が一つなくなってしまうわけです。
日本にも、日本の安全保障のためには南北分断の継続が望ましいという考えが根強く存在しています。2018年に南北首脳会談や米朝首脳会談が相次いで開かれて緊張緩和に向かった時、もし朝鮮半島が統一すれば、日本の防衛ラインが38度線から対馬海峡まで下りてきてしまう、などと言って警戒する自民党の国防族議員や元自衛隊幹部がいました。彼らは今も、韓国を日本にとっての緩衝地帯と見なしているのです。植民地支配をしていた時と同じように。
徐 2018年当時、アメリカや日本の安全保障関係者は、韓国が秩序を乱そうとしていると言っていました。南北で対話がうまくいって朝鮮戦争が終わることは、まったく歓迎されていないんだなと感じました。

軍拡に対する日韓の意識の違い
布施 日本は平和主義を掲げながら、対米従属の中でアメリカの要求に従って防衛力を大幅に増強しようとしています。
徐 北朝鮮が核を持っている今、韓国もそれに対抗するため際限のない軍拡に向かっています。今や韓国では、軍需産業が国家の基幹産業です。日本では、まだ軍拡に対する市民の拒否感が強いように思いますが、韓国では一部の平和団体を除いて市民の拒否感はあまり感じられません。
布施 その違いは、どこからきているのでしょうか?
徐 やはり朝鮮戦争がまだ終わっていないため、韓国では「反戦」を声高に言えない状況があるのです。男は徴兵されて、国家に対する忠誠だとか、北朝鮮に対する憎しみだとか、動員体制に従うことをたたき込まれる。社会がそうやって軍事社会化するわけです。そういう中で、なかなか理想論を語れないというのはありますよね。だから、核武装にしても、日本では8割が反対なのに対して、韓国では6~7割が賛成しています。韓国で新型のミサイルを開発したら、「これは核兵器にも比肩する」ということを、進歩派メディアも嬉々として書いています。
布施 朝鮮半島は植民地支配という苦しい経験をしているのは、大きいと思います。強い軍事力がなかったから外国に主権を奪われて支配されてしまった。だから自立するためには、強い軍事力を持たなければいけない――そうした意識は、イラクで取材をしていた時にもとても強く感じました。
日本は、植民地支配をされてこなかったということと、軍事力を持ちすぎたために過信し、国を滅ぼす戦争に突き進んでしまったという二つの経験をしている。それによって戦後、軍事力に対する非常に強いアレルギーが生まれたと思うんです。軍事力に頼りすぎると危ういという教訓はこれからも大事にすべきですが、一方で、主権や独立を自分たちで守っていかなければならないという意識は韓国に学ばなければならないと思っています。日本は植民地支配をされた経験がないので、そこの意識が薄いと感じます。その結果、在日米軍の特権を定めた地位協定は一度も改定されていません。韓国もフィリピンも、地位協定を何度も改定しているし、イラクもアメリカとハードな交渉をして主権を最大限確保する地位協定をつくっています。