30代のメンタルヘルス危機
最近、30代のメンタルヘルスが危ないといわれています。これまでは、メンタルヘルス不調(心の病)というと、中高年や定年後が危ないとされてきましたが、若い人にもメンタルヘルス不調が増えているのです。近年の、メンタルヘルス不調による自殺の労災申請・支給決定件数はうなぎ登りで、中でも2006年に労災認定を受けた205人のうち、83人(40.5%)が30代でした()。また、06年の社会経済生産性本部の調査でも、30代のメンタルヘルス不調が全体の6割を占めるなど、その多さが際立っています()。私のクリニックを訪れる患者さんも、女性では30歳前後、男性では30歳代半ばの会社員が一番多くなっています。
では、どうして30代でメンタルヘルス不調を訴える人が多くなってきたのでしょうか。
原因の一つに、働き盛りの層が若くなってきている点が挙げられます。今まで「働き盛り」というと40代のことを指していました。ところが、近頃の中心は30代なのです。
昔は社長といえば60代でしたが、段々若くなってきていますね。
大企業でも50代の社長が普通になってきましたし、中小企業では40代の社長も多くなってきました。ベンチャー企業では20代、30代が当たり前ですね。かのホリエモンも30代です。
飲食店などを見てみても、最近は若いオーナーが目につきますね。世の中全体に経営者が若返り、当然ながら、働き手も若い人が中心になってきたのです。
社会的なストレスが大きい世代
このように企業全体が若返ってきているのには、時代が要求するスピードがどんどん速くなり、若くないとついていけなくなってきた、ということもあります。体力も、気力も、それに想像力もです。商品サイクルが短期間になり、次から次へと新商品が発売されます。その現場を担う社員たちはたまったものではありません。そのため、20代の後半から30代でも早い時期に、管理職やその一歩手前の役職に就く人が増えています。昔は管理職に就くのは40歳前後でした。つまり最近では、人をじっくり育てるのではなく、まさに促成栽培なんです。それだけ働く側の負担も大きくなります。さらに、どこの企業でも30代前半の世代は少ないという事情もあります。なぜかというと、バブル経済が崩壊した結果、90年代後半は就職の氷河期・超氷河期が続き、何年も新規採用をしていない企業も少なくありませんでした。
一方で、30代後半はバブル期の入社ですから、だぶついています。30代後半になると管理業務が増えてきますが、人の管理が不得意な方にとってはとてもストレスですね。さらに、一部の方は管理職になりますが、最近は管理職の数を減らす企業が多く、少ない座席をめぐって競争が激化しています。
このように、30代という年齢層は、さまざまな社会的要因が加わることで、多大なストレスを受けている世代だということがうかがえます。
ストレスが引き起こす心の病
さて、このようにストレスにさらされている30代ですが、ストレスとメンタルヘルスにはどのような関係があるのでしょうか。大いに関係しています。メンタルヘルス不調の原因の大部分は、ストレスによるものだと言ってもいいでしょう。ただし、当然ながらすべてが仕事絡みではありません。大雑把に言えば、仕事半分、その他半分です。
このストレスが曲者です。じわじわくると、ストレスの存在に気がつかないかもしれません。また、一見小さいように思えると無視してしまいがちですが、チリも積もれば、大きな山になるのです。さらに、ストレスが減って、ホッとした時に、急に疲れが出てメンタルヘルス不調になる方もとても多いのです。風邪もそういう時にかかりやすいことを、皆さんも経験されているでしょう。
ストレスをコントロールするために
このような状況を受けて、現在では、多くの企業がメンタルヘルス対策に取り組んでいます。第一にストレス対策です。空調とか照明といった職場環境の整備も、ストレス緩和の意味があります。
また、コミュニケーションの機会を増やすことで、ストレス解消を目指す企業も増えてきました。「もうメールでのやりとりはやめよう」と宣言している企業もあるのです。
そして、「過重労働」といっていますが、働きすぎはやめようというのが国全体の取り組みであり、各企業でも取り入れ始めています。
さらに、体調不良になった時のために、相談できる窓口を企業の内外に増やしています。もし、自覚する症状があるなら、ぜひ、早めに相談してください。
最後に一つ。心を健康に保つには、皆さんの心構えも大切です。昔から言われていることには真理が含まれています。つまり、「早寝早起きは得」なのです。十分な睡眠を確保し、食事をしっかりとり、休養する、さらに運動することもとても大切です。に心がけてほしい10の習慣を挙げました。参考にしてください。ほかにも、できれば趣味を3つ以上持ってください。これらをぜひ、習慣化していただきたいです。
一つひとつは小さなことですが、これもチリも積もれば……と同じく、積み重ねが大切なんですね。