失われた20年、リスクをとってケガするな
2010年の大学新卒就職率は過去最低となった。世間では、1995年当時の就職氷河期で不安定なまま社会に放置された世代「失われた10年」のロストジェネレーション世代がまた生まれると騒いでいるが、実はそのころから一向に若者の置かれている状況は改善せず、本当は若者にとっての「失われた20年」が延々と続いている。若者が、この20年間に学んだ事実は、リスクをとって新しいことをするとけがをするという教訓である。
フリーターとキャリアウーマン
1990年ごろは、「フリーター(89年命名)」がもてはやされていた。当時は、正社員になれるのにもかかわらず、あえてならない人をフリーターと名付けたのだ。アルバイトをしながら、夢を追ったり、気楽な生き方をしたりと、会社に縛られない働き方が、これからの若者の生き方だと言われていた。同じころ、男女雇用機会均等法(86年施行)が定着し、キャリアウーマンがもてはやされた。おりしも、バブル経済期で、女性でも正社員としての就職が容易であった。こちらも、男性に頼らず自立して生きる女性が、これからの若い女性の生き方だと言われたのである。
使い捨ての非正規雇用
しかし、現実は逆の方向に進む。彼らがつまずき始めたのが97年のアジア金融危機に象徴される経済の後退である。90年代後半以降、経済の構造転換が進み、企業のコスト削減や派遣社員法改正などがあり、非正規雇用の若者が急増する。つまり、あえて正社員にならないのではなくて、正社員になりたくてもなれないので仕方なくアルバイトを続けざるをえない若者が広範囲に広がるのだ。そして、2008年9月のリーマンショック時に「派遣切り」と言われたように、会社に縛られない雇用形態とは、実は何の保証もない「使い捨て低賃金労働者」にすぎないことが明らかになった。若年女性も同じような道をたどる。女性の社会進出と言っても、正社員で活躍できるキャリアウーマンになれたのは、ほんの一握りにすぎない。そして、男性以上に女性の非正規雇用化が進行する。未婚女性の非正規雇用率は、4割にも上る(18~34歳)。そして、雇用における女性差別慣行は根強く残り、不況になって真っ先に解雇や雇い止めされるのは、未婚女性なのである。そして、結婚して男性に頼ろうと「婚活」に走っても、なかなかうまくいかない。未婚男性の雇用も不安定化しており、妻子を養う収入を得ている未婚男性の絶対数が不足しているからである。自立した生活どころか、結婚もできず、親にパラサイトすることによってかろうじて生活を保っている30代の未婚女性が増大する。その結果、酒井順子さんが「負け犬」と言うような状況に陥ってしまう。
自己責任という名の放置
会社に縛られない自由な生き方を目指した若者、そして、自立を目指した女性の多くは、自己責任という言葉の下で、将来の展望もなく、不安定な立場で放置され続けてしまったのが現状である。それを見ていた下の世代は、「自由で独立した生き方」を目指すと結局は損をすることを学習した。とにかく、安定した企業の正社員や公務員にならないと、また、女性はそのような男性と結婚しておかないと、将来的に希望のない生活が待っていることがはっきりしたのが、この10年である。その結果、今の20代は、終身雇用志向が若い世代ほど増えている。また未婚女性の専業主婦志向も増大している。一昔前の「雇用慣行」「性別役割分業家族」にしがみつこうとする若者が増大しているのだ。保守化せざるを得ない若者
しかし、現実は厳しい。バブル崩壊後、1990年代に経済構造が大きく転換し、学校卒業者全員が安定した企業の「正社員」にはなれないし、未婚女性が安定した収入の男性と結婚できる確率は低くなっていく。にもかかわらず、「新卒偏重の雇用慣行」「非正規労働者の差別的待遇」はほとんど変化していない。その結果、新卒の若者たちに、非正規化のツケがすべて回ってしまったのだ。若者の意識は「保守化」せざるを得なくなったのだ。そして、その一昔前に当たり前だった、安定した雇用や結婚を目指すことに必死に努力する。将来が不安だから、自分の楽しみのための「消費」もできない。車やブランドバッグや海外旅行にお金を使うよりも、将来に備えて貯金する若者が増えている。婚活も、その本来の意味を変じ、女性にとって安定収入の男性をゲットすることのみが強調されている。
努力が報われない社会
その一方、競争から降りざるを得ず、正社員から漏れてしまった若者たちは、努力しても報われないと「希望」は「絶望」へと変わる。そして、絶望からやけになる若者たちもでてくる。そうして自らの「欲望」さえ見えなくなってきている追い詰められた若者たちはどうなるのか。社会全体で若者たちの状況を変える道を考えなくてはならない時代に来ている。