◆生命と尊厳を守る社会保障の再構築を
ちなみに、健康保険については、労働者を違法に管理するいわゆる「ブラック企業」の問題も無視できない。ブラック企業で往々にして見られるのが、労働者を「個人事業主」扱いすることで、被用者保険へと加入させることを回避し、労働コストを抑えるといったことである。労働者が国民健康保険に入れば、企業が被用者保険のために保険料の企業負担分を支払う必要もないため、経営上合理的だというのである。筆者も支援に関わるブラック企業裁判の事例でもこうしたことが普通に行われており、労働者は高い保険料を負担せざるを得なくなっていた。読者の方も自分の保険がどうなっているか、いま一度よく見ておいたほうがいい。
現在、非正規雇用者の割合は3割を超え、実数では2000万人近くに上っている。これに応じて、若年層の貧困率は年々高くなっているのが現状だ。特に、OECDの調査によれば、各種制度によって所得の再分配が行われた後でも、18~25歳の若年層は5人に1人程度が貧困状態に置かれており、事態は極めて深刻である。こうした中にあって、日本の社会保障制度は私たちの生活の支えにならず、むしろ格差と貧困を助長する。
社会保障を、生命と尊厳を守るという理念に立脚し再構築すること、これが今最も必要なことである。若い人が希望を持って生活をおくり、温かい家庭を築くことで社会を再生産していく、そういう国を作らなければならない。