女の子たちは好きでやっている?
JKビジネスという言葉は、すでに社会的にも浸透し、ご存じの方も多いと思います。しかし、その実態がどこまで正しく把握されているかといえば、一般的にはいまだ実情が知られていない、と私は思っています。とくに日々痛感するのは、多くの人々の無理解です。「JKビジネスって、援助交際だよね。女の子たちは好きでやっているんでしょ?」「需要と供給があるから成り立っているんだし、女の子にも責任があるよね」
こういった素朴すぎる意見に対し、私は反駁(はんばく)を繰り返しています。「需要と供給」という言葉に覆い隠されてしまう、真の暗部を知ってもらうためです。JKビジネスが日増しに深刻化し、一向になくならない理由は、まさに「需要と供給」を成り立たせている仕組みがあるからです。
それは、若い女の子の性を買いたい大人と、商品として売りたい大人たちが築き上げているシステムです。決して彼女たちが主体ではありません。あくまでも裏には、売春を促す業者と買春者がいて、女の子たちは彼らに操られています。私のもとへ相談に来る女の子の中に、自ら進んで体を売りたいと思っていたという子は、ほとんどいません。そうせざるを得ない状況にいつの間にか追い込まれ、性を商品化され、搾取されているのです。
少し前までは、繁華街などで声をかけられて、誘われていく子が多かったのですが、現在は女の子たちを絡めとる手段が複雑化しています。業者はLINEやTwitterをはじめ、現代っ子になじみ深いSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を最大限に活用し、彼女たちに巧みに接近していきます。
今の10代の子たちにとって、スマホやケータイのサイト、アプリなどは生活に密着した道具で、それがなければ生きていけないほど大切なものです。そこにつけ込む形で、業者は次々と新しい手を打ちます。「アバターを作って出会えるから安心」「ゲームを通して友達を作れちゃう」といった、ソフトな文言をうたいつつ、巧妙に「買いたい男性」とのつながりを形成させていく。あるいはSNSで、女子高生のアカウントを膨大に集めて、声をかけているのです。
彼女たちにしてみれば、「怪しい人はブロックするから大丈夫」という考えなのですが、当然ながら相手はずっと手だれです。女の子が寂しそうにしている時に「どうしたの? 元気ないね~」などとメッセージを送り、おびき寄せるのも常套(じょうとう)手段。メールやチャットなら電話で話すより気が楽だからと、何度かやりとりを重ねるうちに、相手が業者の人間だとは知らないまま、SNS上でつながってしまうこともあるのです。
お客さんと散歩するだけだから
業者は女の子を集める方法をマニュアル化しており、独自にLINEなどで情報共有しています。「渋谷のどこどこに、こんな子を発見」「今から店に連れて行く」といったやりとりをリアルタイムで組織的に行っており、まさに獲物を狙うかのように女の子を誘っていきます。2013年、女子高生がリフレクソロジーを施すとうたった「JKリフレ」が警察に摘発されましたが、その後も業者はサービス形態をあれこれ変えることで生き延びています。今は「JKによるカウンセリング」「JK占い」「JK散歩」といったふれこみで、店を展開しています。「若い女の子とコミュニケーションができるサービスを提供しているけど、決して風俗店ではありません」というわけです。警察の取り締まりとは、いたちごっこです。
女の子たちに対しても、業者は「安全なアルバイト」と装います。「お客さんと散歩するだけだから大丈夫だよ」と。しかし、これまで80人以上の子たちに聞き取りをした結果、ほとんどの子が「僕とどう?」と、客の男から性的交渉を持ちかけられていました。それが、当たり前の状況となっているのです。
また、こうした狡猾(こうかつ)な勧誘手段は日夜研究され、以前ならこの種の危険には縁がなかったであろう女の子までがJKビジネスに取り込まれ始めたのも、憂うべき実情です。すなわち頭がよく、親との関係も悪くなく、成績も優秀で有名大学への進学を目指していたり、すでに推薦入学が決まっているような優等生タイプの子が、安全だと信じ込んで関わっているケースが、見受けられるようになっています。
驚くことに、業者の中には受験勉強の指導や、学校への送迎までやっているところさえあります。「空いた時間に、勉強を教えてあげるよ」と、高学歴のスタッフが受験勉強の指導などもする。まじめな女の子は「勉強を教えてもらえるし、バイトは放課後に塾へ行くまでの空き時間で、たった1時間でもOKって言うから便利で安心」と思わされてしまう。
そうした子たちの中には、性的サービスまでは行っていない子もいます。業者にとって「まじめで普通な子」の役割は、その子のまわりの女の子たちの警戒感を解くことです。「あの子がやっているなら、私も大丈夫かな?」と思わせて、芋づる式に友達の友達を集めていく。JKビジネスの業者は今、こうして「商品となるJK」の層を拡大しようとしているのです。
心の傷を利用し商品化する業者
日本では「自己責任論」が、他の国に比べて強く支持されている、と言われます。私自身、こうした問題に取り組む中で、その傾向をよく感じます。ですがJKビジネスに取り込まれ、性を売るよう仕向けられている女子高生たちに対して「自己責任」と言い放つのは、問題の真相を正しく捉えていないからだし、他人ごとと思っている証拠です。JKビジネスに関わる女の子の多くは、居場所を失った子たちです。親から性的虐待やネグレクトを含め、様々な虐待を受けている。そこまでひどくはないにしても、家庭や学校で孤立していたり、疎外感を感じている。先ほどのまじめで普通な女の子のように、ごく平和な家庭で育っている子にしても、その多くは「親の過干渉に困っていて、息苦しいから少しでも家から離れたい」と考えていたりします。
彼女たちが、居場所のない苦しみを持つに至った背景を、想像してみてください。「非行」といわれる行動を子どもが起こす時、その前提には必ず身近な大人の影響があるのです。大抵の場合、親が非行をしています。自分に自信が持てないと諦めている子たちも、身近な大人から諦められた経験があります。すべては大人の身勝手、無理解、非情によって、子どもたちが居場所をなくしていくのです。その心の傷を利用し商品化する業者がいて、それを買う男性たちがいるわけですから、彼女たちの売春を自己責任と断じることはできません。
日本の社会で、いま一番居場所を失いやすくなってしまうのは、15~18歳くらいの子どもたちです。この年齢になればどんな子も、親に言えないことの一つくらいは出てくるもの。家や親から一時的に逃げ出したいという心理は、思春期にはむしろあって当然で、極言すれば自然な成長の一過程であるとも言えます。しかし今の日本には、そんな時に頼れる大人がほとんどいません。