また、個人番号カードの記載事項は、マイナンバー法で定めた情報のみで、地方税関係の情報などプライバシー性の高い情報は記載されません。正当な理由なく特定個人情報ファイルを提供した場合などの罰則も強化され、マイナポータルで自分の情報がどう提供されたかもチェックできるようになっています。
以上とは別に、情報提供ネットワークシステムや情報の照会・提供に関わる機関を監視・監督するため、内閣府外局に新しく独立した第三者機関「特定個人情報保護委員会」も14年1月に設立されました。行政機関や独立行政法人は、特定個人情報の漏えい等のリスクを分析し、対策を講じて特定個人情報保護評価を作成し、特定個人情報保護委員会の承認を得ることになりました。また、特定個人情報保護委員会は、行政機関にマイナンバーを付して個人情報を提供しなければならなくなった民間企業等に対しても、マイナンバーの利用の制限や安全管理の方法をガイドラインとして示し、周知徹底を図ろうとしています。こうした対策は、マイナンバー制度がなくても情報社会で必要となるものですが、これで対策が万全だということにはなりません。社会全体で個人情報保護の体制整備が進められ、それを見ながらマイナンバーの利用拡大が検討されるべきです。
マイナンバー制度の今後
このようにマイナンバー制度は、安心安全を確認しながら、より広い分野で利用されることが期待されます。2015年の改正法では、2020年より生活習慣病予防のための特定健康診査(メタボ健診)の情報や予防接種履歴に番号をつけ、健保組合などの間で特定健康診査情報が引き継がれ、地方公共団体間で予防接種履歴が共有できるようになります。また、本人が希望すれば、預金口座にもマイナンバーが紐づけされます。これにより、国はペイオフの際の預金額の合算や、社会保障の資力調査の際、預金情報が簡単に把握できるようになります。地方公共団体の雇用・障害者福祉などでの利用拡大も進められるでしょう。次のステップとして政府が利用を考えているのは、戸籍やパスポート事務への適用、国家公務員身分証との一体化や地方公共団体等の職員証、民間企業の社員証等としての利用、個人番号カードのキャッシュカードやデビットカード、クレジットカードとしての利用、個人番号カードを用いた住民票等の書類のコンビニ交付、各種免許等公的資格確認の認証機能を個人番号カードに付与することなどです。医療や介護の分野では、個人番号カードの健康保険証としての利用や、患者本人が医療情報を生涯にわたって経年的に把握し、健康管理に活用できるようにすることも考えられています。
利便性より国民の信頼
政府は、マイナンバー制度への理解を得ようと、国民の利便性向上をことのほか強調しているようですが、これは大きいとはいえ副次的な利点です。マイナンバー制度の最も重要な目的は、税や保険料の負担と社会保障給付や行政サービスの提供で公平性、透明性を高めることです。個人や世帯について、どういう所得がどれだけあってどう負担されているか、またどんな給付やサービスがどう提供されているかを、国や地方公共団体が正確に把握できなければ、負担の公平性は確保できませんし、漏れのない給付も実現しません。マイナンバー制度が成功するかどうかは、行政がどこまで国民に信頼され、所得や給付に関係する情報をどこまでマイナンバーで利用できる情報として国民に認めてもらえるかにかかっています。マイナンバー制度の利用拡大を通して、行政に対する人びとの信頼が強化されることを期待したいものです。