パリ協定の発効はこの流れを後押しし、世界のESG要素を考慮した持続可能な投資の資産規模は、14年の18.3兆ドルから16年の22.9兆ドルへと拡大している。日本でも、14年の70億ドルから16年の4740億ドルへと急拡大したが、世界全体に占める割合は約2%(2016年時点)に止まっている。
グリーン投資とダイベストメント活動の拡大
グリーン投資とは、自然資源保全、再生可能エネルギーの生産や開発、水大気環境の向上や環境配慮ビジネスの実践に係る投資のことである。投資の形態には、公債や社債、環境関連産業の株式やファンド、投資信託等が含まれる。
なかでも「グリーンボンド」が現在急速に成長している。これは、民間企業、国際機関、国、地方公共団体等の発行体が、温暖化対策や汚染の予防・管理、生物多様性の保全、持続可能な水資源の管理等の環境プロジェクトに要する資金を調達するために使途を限定して発行する債券である。世界でのグリーンボンド発行額はここ数年で急増し、16年の年間発行額は810億ドルと、2015年の2倍に迫る水準となった。
さらに、ダイベストメントと呼ばれる活動も広がっている。これは金融機関や機関投資家等が気候変動リスクなどの観点から、特定の資産に対する投融資を引き揚げることである。例えば、15年6月に、ノルウェー公的年金基金が保有する石炭関連株式を全て売却する方針がノルウェー議会で正式に承認された。同年10月に成立したカリフォルニア州の法律では、二つの年金基金(カリフォルニア州職員退職年金基金、同州教職員退職年金基金)に対し、発電用の石炭に関連する企業に新規に投資することなどを禁じた。17年1月には、ドイツ銀行が、新規の石炭火力発電所の建設及び既存の石炭火力発電所の拡張に対する投融資を行わないなどの方針を公表した。
脱炭素社会実現に向けた日本の課題
日本は、16年11月8日にパリ協定を締結した。30年度26%(13年度比)排出削減目標の達成に向け、地球温暖化対策計画に基づき対策を進めるとともに、長期的目標として50 年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指している。
このような大幅な排出削減は、従来の取り組みの延長では実現が困難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする、脱炭素で持続可能な経済社会の構築に向け、立ち遅れているパリ協定への取り組みを本格化することが必要だ。
日本国政府の2030年のエネルギーミックス(電源構成)には問題が多い。省エネ、再エネの見込みが小さすぎ、原子力発電20~22%は非現実的である。また、石炭火力を現状より増やし26%とすることは、CO2排出量を考慮すると過大だ。現在、日本では次々と石炭火力発電所の新設計画が出されているが、石炭発電の使用電力量当たりのCO2排出は、天然ガス火力発電所の2倍以上である。さらに今後世界的に排出規制が強化された場合、石炭等の確認埋蔵量のかなりの部分や化石燃料使用を前提としている火力発電所なども、「座礁資産」(回収できる見通しのない資産)となる可能性がある。
現在、日本政府は、「長期脱炭素発展戦略」を策定中である。長期戦略は、将来の社会経済のあり方を展望した国家の発展戦略となるものだ。気候変動対策をきっかけとした技術、経済社会システム、ライフスタイルのイノベーション創出が、CO2の長期大幅削減と日本社会が直面する少子高齢化、人口減少、地方の衰退などの経済・社会的諸課題を同時解決する鍵となる。
世界的な脱炭素経済への流れは必然で、脱炭素に向けた巨大なグリーン新市場の拡大が予想される。例えば、国際エネルギー機関(IEA) の試算によれば、2℃シナリオにおいて電力部門を脱炭素化するには、16 年から 50 年までに約9兆 ドルの追加投資が必要とされ、建物、産業、運輸の3部門の省エネを達成するには、16 年から 50 年に約3兆ドルの追加投資が必要とされている。その巨大な「約束された市場」への挑戦は、日本経済の発展を左右する。また、気候変動対策の実施により、エネルギー支出削減や国際競争力の強化、雇用創出に加え、気候変動リスクの回避、資産価値の向上、エネルギーセキュリティ強化など多様なメリットがもたらされる。
脱炭素経済への移行の核となる政策手段が「カーボンプライシング」(炭素排出への価格付け)である。カーボンプライシングは、全ての経済主体に排出削減のインセンティブを与え、市場の活力を最大限活用し、低炭素の技術、製品、サービス等の市場競争力を強化する効果が期待できる。炭素に価格が付くことで、CO2排出者は排出を減らすか、排出の対価を支払うかを選択し、社会全体でより公平かつ効率的にCO2を削減できる。また、カーボンプライシングによって新たな投資と需要が喚起され、脱炭素型イノベーションが促進される。
カーボンプライシングの具体的手法には、炭素税と排出量取引がある。日本の現行の温暖化対策税(炭素税)は税率が世界的にも非常に低く、温室効果ガス抑制にはあまり効果を上げておらず、本格的な炭素税の導入が必要である。すでにスウェーデンやドイツなどでは、日本の温暖化対策税よりもはるかに高税率の炭素税・環境税をグリーン税制改革の一環として実施した結果、排出削減と経済的便益を同時に達成している。炭素税の税収は、所得税減税ないし社会保険料軽減にあて税収中立とする、あるいは社会保障政策の財源とするなど、他の政策目標との統合を図ることも可能だ。
現在の日本経済は、低金利で資金は潤沢にあり、需要不足が課題である。気候変動対策の推進とそれに伴うイノベーションの展開に資金と技術を投入することが、日本経済の基盤と国際的競争力の強化につながっていくのだ。
カーボンニュートラル
環境における炭素循環量に対して中立であること。事業活動などの人為的活動を行った際に排出される二酸化炭素と、吸収される二酸化炭素が同じ量であり、大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えないことを指す。
緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)
開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動の影響への適応を支援する目的で発足した気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)に基づく多国間基金。
RE100
事業運営で使用する電力を、100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する国際的な企業連合。「Renewable Energy 100%」の頭文字をとって「RE100」と命名された。