2017年6月、国会で性犯罪を厳罰化する刑法改正案が可決成立し、第177条の強姦罪が「強制性交等罪」に改められた。それにより明治時代の刑法制定以来、被害者を女性に限っていた強姦および準強姦の罰則規定が、男性にも等しく適用されるようになった。
その背景には、男性の性被害の深刻化がある。アジア女性基金(財団法人女性のためのアジア平和国民基金、2007年3月に解散)の「高校生の性暴力被害実態調査」(2004年)では、日本の未成年男子で何らかの性被害を受けたことがある人は高校生男子で5~10人に1人、レイプ被害率は1.5%となっている。では、これまで表面化することがなかった男性性被害の実態とは、果たしてどのようなものなのだろうか? 男性性被害者の専門相談センター「カウンセリングオフィスPomu(ポム)」の山口修喜代表に話を聞いた。
6人に1人が被害に遭っている
性的な虐待は、被害者にはかり知れない苦しみを与えます。それは、男性の成人や子どもにとっても同じです。男の子、女の子ということ以上に、人だということです。子どもだということです。そこで、まだまだタブー視されている男性の性被害に焦点をあてて、欧米と日本の支援体制の違い、男性被害者特有の苦しみ、そしてどのような回復のプロセスをたどっていくかをお話しします。
まずは性被害者の数について。さまざまな統計がありますが、おおよそ世界的には「6人に1人の男の子」「4人に1人の女の子」が被害に遭っている、と言われています。しかも、「性的な虐待がない国・文化はない」とも言われているので、しっかり統計をとれば、日本にも当てはまる数字ではないでしょうか。
実際に、この日本にも過去に何らかの性被害を受けた人が多くいます。想像してみてください。全人口から単純計算すると、約1000万人の男性性被害者がこの国で毎日生活を送っていることになります。通勤して、仕事をして、家族と食事して暮らしています。女性性被害者は約1600万人です。イメージが湧きにくいでしょうか? 例えば、皆さんが勤めている会社の部署に、30人くらい男性社員がいるとします。その中の5人は何らかの性的なトラウマを経験した人であるかもしれない、ということになります。女性社員30人であれば、そのうち7、8人が性被害を受けている可能性があることになります。
想像してみてください。5万人が入るスタジアムがあったとします。すべて男性の性被害者。そのスタジアム約200個分の男性が毎日この日本で暮らしています。実感が湧いてきましたでしょうか? 私はそうした数字を、軽視できない大事な問題だと感じます。
主な加害者と残されるダメージ
男性性被害の加害者ってどんな人ですか? ということもよく聞かれます。男の子を加害する人は約3分の2が男性で、残りが女性です。親、兄弟、親戚であったり、教員や福祉職員といった子どもを相手にする仕事についている人の場合もあります。ごくたまに、通りすがりの知らない人であったりもします。貧困層や富裕層に関係なく、性的虐待はあります。学校内での性的ないじめもよくあります。
なぜ加害するのかについては、なぜ人は人をいじめるのか? と似ていると思います。加害者は他人との距離感というものが少ない人に多く、そこに性的なトラウマが入ってきます。子どもに性的な興奮を覚える人も中にはいます。そのように複合的な理由で加害をします。
では男性が性被害を受けるとどうなるのでしょうか? 男性性被害者の特徴を理解するには、女性性被害者のことを理解する必要があります。男女の違いはあれど、多くのことは共通しているのです。
性被害を受けるということは、強烈に心や体にダメージを受けます。過去の性的なトラウマの出来事が、まさに「今」繰り返されているような感覚になるフラッシュバックに始まり、恐怖感、絶望感が一緒に蘇ってくることもあります。フラッシュバックによって異常なほどの覚醒状態になったり、その反対に無気力感やうつの状態になることも多く、それらが繰り返されることもあります。ハイな状態とロウな状態を交互に繰り返すのです。そのうち、穏やかでリラックスした状態に留まることが難しくなってきます。
過去の嫌な感覚がフラッシュバックしてくるのを感じなくするため、何かに依存する傾向もよく見受けられます。酒、スマートフォン、仕事、セックス、薬物などに依存します。それを好きでやっているのではなくて、ほんの一瞬でもいいから、嫌な感覚をマヒさせたいだけです。何かをしていれば、そのときだけは忘れた気になりますよね。さらに人によっては、自殺願望が湧いてくる場合もあります。このように男女で共通する部分が多いのですが、違いも見られます。
男性の性被害者に見られる特徴
次に、男性性被害者の特徴を3点ご紹介します。
まず一つめは、恥じる意識が強いという点。
グラウンディング
地面から発生するエネルギーに自身をつなげるよう意識し、心身のバランスを保つワーク。体内に溜まった負のエネルギーが取り除かれ、本来の自分に戻すことができるとされる。
マインドフルネス
ターゲットとなるものに積極的に注意を向けている心理状態のこと。自分の思考、感情、行動、身体反応に対し、判断を交えずに、集中的に注意を向ける瞑想であり、深いリラクセーションが得られることを示唆する研究もある。