それよりも、農薬や化学肥料を使わなくても育つ在来種を取り戻そうという運動が始まったのです。
当初は在来種育成のノウハウがないため、植えても全部枯れてしまいました。そこで彼らは、地方で細々と在来種を守りつないできたハルモニ(おばあさん)たちへの聞き取りを始めます。それによって、再び在来種を育てて種を採ることが可能になりました。やがて農協や生協も活動に加わり、現在では一部の地域では条例も作られ、公的事業として認められるに至っています。さらには、農協が主導して、「韓国の農業を憲法で守るべきだ」という署名運動も始まり、1000万人を超える人が署名しました。韓国の人口は5000万人余りですから、約5人に1人が署名したことになります。農業は社会の基盤として絶対に必要なものだというふうに、人々の意識が変わったのだと思います。
2017年には国連で、19年からの10年を「家族農業の10年」とすることが採択されましたし、「小規模家族農業を守ろう」という世界的潮流が生まれつつあると言えます。日本もこの潮流に乗れるかどうかが、とても重要だと考えます。
具体的には、種子法を復活させることに加え、「在来種保護法」の制定が必要だと思います。各地域で、その地域に合った種子を守る運動を起こし、それを政策化して目に見える形にしていく。今、兵庫県や新潟県などいくつかの自治体が、種子法に代わる内容の条例を制定しているのですが、中でも埼玉県では一歩進めて、「在来種の保護」を盛り込んだ条例がすでに生まれています。現状を見れば確かにひどいことが起こっているのですが、逆手に取ればこれは農業の在り方、政治の在り方を変えていく「チャンス」だとも思います。
まずは、庭やベランダで、自分で野菜を育てて、そして種を採ってみてはどうでしょうか。非商業用であれば、自家採種は法的に何の問題もありません。そうして一人ひとりが自分で種を作っていくことも、種を守り、増やしていくための一歩になると思います。
1998年に批准
UPOV条約は、植物新品種保護国際同盟条約。1961年に採択され、68年に発効。3度の改正が行われ、日本は91年に改正されたいわゆる「ユポフ91年条約」を批准している。
アグロエコロジー
生態系を守るエコロジーの原則を農業に適用する科学であり、その農業の実践であると同時に、食や農業の在り方を変える社会運動でもあるとされる。工業化された農業に対するオルタナティブとして注目を集める。