こんな時代錯誤な構図がいまだに多くの番組でまかり通っていることにも驚かされるし、制作側も恥ずかしくないのだろうかと思ってしまいますね。こういうことのジェンダーバランスは、意識的にとっていかないといけないはずです。
性差別的な価値観を持たせないための教育を、小さいうちから
こうした「性差別社会」をどうしたら変えていけるのかと考えると、大人になってからの教育だけでは遅いと思うのです。もちろん、最近企業や役所で広がってきたように、セクハラをした人に研修を義務づける、セクハラ言動をする人は人事上マイナスに評価して絶対要職に就けない、といったことは大切です。ただ、それで「こうした行為や発言がなぜ許されないのか」という根本的なことを、本当に内心まで浸透させられるか、納得させられるかというと、やはり非常に時間がかかるし、限界もあるのではないかと思います。
それよりも、可能な限り若い──むしろ幼いうちから、性差別的な価値観を持たせないための教育をすることに、もっと力を注ぐべきなのではないでしょうか。今の世の中は本当にひどい性差別社会だという前提に立った上で、特に男の子には差別する人にならないように、加害者にならないように意識しながら育てていく必要があると思っています。
私も今、息子たちと一緒にテレビを見ているときなどに、何かひっかかる表現があれば「こういうことは失礼だから言っちゃダメ」「これは女性に嫌な思いをさせることだからやらないでね」と、一つひとつ指摘するようにしています。口うるさく聞こえるだろうけれど、やっぱり言わなくてはならない、と思って。まだ小学生ですから、「なぜよくないのか」まではわかっていないかもしれませんが、少なくとも息子たちにとって一番身近な女性である私が、こういうことを見て・聞いて嫌な気持ちになるんだということだけは伝えたいと思っています。
また、駅などで「痴漢はダメ」というポスターを見て、息子が「痴漢って何?」と聞いてきたことがあります。「こっちは触られたくないのに触られることだよ。女の子の被害が多いけど、男の子の被害もあるよ。本当に怖くて嫌な思いをするものなんだよ」と説明しました。
性教育の漫画や絵本なども、かなり小さいときから息子たちには読ませています。「特に、水着で隠れるところ」は、その人だけの大事な場所だから、相手が誰でも、触らせてはいけないし、相手がいいと言わなかったらあなたも触ってはいけないんだよ、というようなことは繰り返し伝えています。
東京医科大学で、入試の際の不正が明らかになったときも、性差別についてのわかりやすい題材だと思っていろいろ話をしました。「同じテストで男の子も女の子も100点取ったのに、女の子だけ80点だったということにされていたら、どう思う?」と。そこから、「女の人は昔、選挙権もなかったんだよ」とか、「今も女性の政治家はすごく少ない」「会社に勤めてもお給料が男性より安いとか、子育てなどが始まると長く働き続けづらいとか、いろいろな不利益が今もあるんだよ」という話もしました。どこまで理解しているかは全くわかりませんが、女性が不利な立場になりやすい、こういう社会構造があるんだということは、早め早めに教えたほうがいいと思っています。
特に男の子の場合、自分で望んでそう生まれてきたわけではないけれど、この社会では構造的に有利な面の多い特性を持って生まれてきたのだという認識は持てるように育てたほうがいいのではないでしょうか。もちろん、子どもたち自身に責任があるわけではありませんから、男の子を責めるというのではなく、社会を構成する大人に成長していく中で、そういう社会は変えなくちゃいけないねという意識を育てていってほしいと願っています。
女の子に伝えたいこと
私には娘がいないので、女の子に直接話す機会というのはなかなかないのですが、娘がいたら、やはり性差別構造のことは早い時期から教えると思います。そして、私も引き続き他の仲間と一緒にこの構造を変えるためになんとか闘い続けると伝えて、あなたは性差別に屈しなくていい、私たちが可能な限り大人として守るから、あなたもいずれ一緒に闘う大人の一人になってくれたら嬉しいというようなことを言うかもしれません。
私自身が10代の頃を思い出すと、いろいろな葛藤が本当に強い時期でした。男の子にモテたいという思いはあって、しかし「モテる」タイプではなかったので、「モテる」タイプに擬態しようとしてみたり、それが上手くいっても葛藤し、いかなくても落ち込み、ということを繰り返していたような気がします。若い女性向けの女性誌で「愛されメイク」とか「モテ力」などの言葉が並んでいるのを見ると、あの頃の自分の葛藤を思い出して複雑な思いになります。
娘がいたら、モテたいと思っても(思わなくても)もちろんいいけど、「男の子に好かれるためにバカなふりをするのはやめておけ」という一言は結構繰り返し伝えたい気がします。エマ・ワトソンの国連でのスピーチなども読ませたいです。視野を広く持って、世代の上下、また、違う国に、自分を自分らしく表現して素敵に生きている女性がたくさんいるということを知る機会をなるべくつくってあげたいです。
女性が性被害に遭いやすいということは、私自身も何度も被害を経験していますし、そんなことを娘に伝えるのは本当に胸痛むことですが、やはり伝えるでしょうね。そして、なるべく被害に遭わないように工夫するように、もし被害に遭っても絶対被害者は悪くない、悪いのは加害者だ、と繰り返し教えます。若年層の「デートDV」にも深刻なものがありますので、どんなに好きな男性からでも、嫌なことをされたら嫌だと言えるようにもエンパワーしたいです。
差別的な男性を減らしていく──次の世代への「レガシー」として
もちろん、家庭だけで「性差別や性暴力の加害者に/被害者にしない」ことが実現できるかといえば、そうではありません。どんなに親が頑張っても、周囲の人に引きずられる部分もあるだろうし、メディアの影響も大きい。社会全体の「差別しない」レベルを上げていかなくてはどうしようもないと思います。
そのためには、やっぱり一人ひとりが「おかしい」と思うことに対して声を上げていくことです。地道なことですが、それが実を結んでいくことは確実にあると信じています。
統計があるわけではありませんが、知人から見聞きする話などでは、今20代とか30代前半くらいの若い世代の男性は、自分の父親世代より、家事や育児を柔軟に分担する傾向があるように感じます。
また、かつて、「スカートめくり」は私の通っていた幼稚園や学校でも見かけたし、多分アニメや漫画などにもそういうシーンが登場していました。でも今では、現実でも漫画でもあまり聞かないですよね。私の体感に過ぎませんが、明らかに激減しています。
東京医科大学で、入試の際の不正
2018年8月、東京医科大学が医学部医学科の一般入試において、女子受験者の得点を一律に減点するなどして、意図的に女子の合格者数を抑えていたことが発覚した。