一つは化学肥料や農薬に依存しない農業をめざす有機農業を含むアグロエコロジーであり、もう一つは小規模家族農家の支援である。
これまで世界は、農業を工業化し、民間企業を参入させていけば、農業は生産力があがって、世界の飢餓も解消すると考えていた。しかし、民間企業に農業を任せれば、食料における安全保障が危うくなることが2007年、2008年の世界食料危機で明らかとなり、その後、国連は小規模家族農家重視政策へと転換していく。現在の新型コロナウイルスでも輸出志向の工業型農場の生産が止まってしまっていることが報道されている。工業型の食のシステムは危機に弱いのだ。気候変動の激化を受けて、化学物質に依存した農業を変えなければ、ということでアグロエコロジーを推進する国の数もどんどん増えている。
そして、独占された種類の限られた種子・種苗よりも地域に適応している多様な在来種こそ、気候変動が激しくなる今後に重要であるとして、世界各地で在来種を守る条例や法制化の動きも活発になっている。2018年に成立した「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」では種子についての小農の権利が明記されている。
残念なことに、世界で起きたこうした重要な転換は、日本では無視されている。いまだに日本政府は、「輸出できる農業」「農業の規模拡大」「民間企業の農業参入」を掲げているままだ。そして、その延長線上にこの種苗法改定もあり、一心不乱に民間企業の知的財産権拡大に努めようとしている。今、日本では多数の在来種が毎年急速に消えつつあるが、政府はこちらの方は一顧だにしない。
日本の食料自給率(カロリーベース)は30パーセント台という状況である。このままいけば、日本の未来は(農業だけでなく)絶望的なものとなってしまうと言わざるをえない。
今こそ、政策の大きなシフトチェンジが不可欠であり、種苗法を改定している場合ではない。日本の食と農の今と未来を全面的に考え直すときだろう。
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