従来は対象者が「離職後2年以内」の人に限られていた。今回のコロナ危機では、失業はしていないものの給与が大幅カットになっている非正規労働者がたくさんいるが、これまでは離職しない限り、制度を使えなかった。
厚労省は4月20日から、離職はしていなくても収入が減った人も住居確保給付金を使えるように制度改正をした。この制度がうまく活用されれば、新たに住まいを失う人を減らすことができると期待。
・もう一つ、厚労省は生活保護を柔軟に運用することも決めた。面談時間を短くするため、申請にあたっての調査を簡素化し、自動車保有の要件も緩和した。住まいを失った人が申請した際には、従来の基準を超える宿泊代金のビジネスホテルも活用してもよいとした。最後のセーフティネットである生活保護をフル活用しようという姿勢は評価できる。
4月9日(木)
・東京都は、ビジネスホテルを500室確保し、「チャレンジネット」で緊急宿泊の受け付けを始めたようだ。だが、都内には約4000人のネットカフェ生活者がいるため、これでは多くの人が支援からこぼれ落ちてしまうことになる。
・私たちがサポートしている人からも「無事に入れることになりました」という報告が届く一方で、「行ったけど、ダメだった」という人もいる。
「チャレンジネット」の緊急宿泊支援の対象は「都内に6ヶ月以上いる人」に限られており、そのことを証明する書類の提示を求めている。ネットカフェの領収書や病院の診察券、Suicaの履歴でもいいと言うが、そうしたものを一切持っていない人も少なくない。
都の担当者は、「都内6ヶ月未満」の人も受け入れると、困っている人が他県から多数流入してくると考えているらしい。それで、理不尽な足切りをしていると推察される。都が一切、広報をしないのも、同じ理由ではないかと疑っている。
・「つくろい」のメール相談の件数は14件まで増え、都内各地からSOSが入る。「人生詰(つ)んだ」、「もうおしまいです」、「死んだほうがいいかと思う」と絶望している人も多い。「つくろい」のスタッフだけでは対応しきれなくなり、普段から連携をしている団体や個人に協力を要請。即席の緊急出動チームに入ってもらう。
・緊急事態宣言が出たことで、さらに人通りが減った。路上販売に苦戦している『ビッグイシュー』の販売者を支援するため、有限会社ビッグイシュー日本は「コロナ緊急3ヵ月通信販売」のキャンペーンを始めることにした。普段は行なっていない通信販売を3ヶ月間限定(6号分。送料込み3300円)で募り、その利益を販売者に還元する仕組みである。2000人を目標に募集を開始し、目標が達成すれば、販売者1人あたり4万6000円程度の現金給付を実施する予定である。
私もSNSで、このキャンペーンの告知を拡散。瞬く間にリツイートや「いいね」が増えていく。
4月10日(金)
・相談にのっている女性から電話が入る。区役所に相談に行ったが、「数日前に泊まっていたネットカフェが別の地域だから、そこの区役所に行け」と言われているという。
担当者に電話に出てもらい、私が交渉する。「この緊急時にたらい回しをするんですか! 今、相談者をあちこち行かせたら、国や都の感染症対策と逆行しますよ! いいんですか!」とつい、声を荒らげてしまう。
担当者も「来る人みんなを受けていたら、窓口がパンクします!」と言い返してくる。職員がオーバーワークになっている状況には同情するが、相談者にしわ寄せがいくのは許せない。「とにかく、上司と相談してください」と言う。
20分後、その担当者から女性の受け入れ先を探すことにした、という電話が入る。
・一部には営業を継続しているネットカフェがあるものの、休業に踏み切るネットカフェが増えている。いよいよ今日、ネットカフェにも東京都から休業要請が出されることになった。
・事態は切迫しているが、都は相変わらず、「都内に6ヶ月以上いる」という緊急宿泊支援のルールを崩そうとしない。このままでは、多くの人が路上に追いやられ、交通費のある人は一斉に地方都市に移動するだろう。メール相談は50件を超えたが、関西や北関東に移動した方からの相談も寄せられるようになってきている。つながりのある各地の支援団体にも協力をお願いして、対応してもらう。
・東京都はまだ緊急宿泊支援についての広報を始めない。さすがに腹に据えかねて、Twitterに以下の投稿をする。
新宿、渋谷、池袋、上野、北千住、立川、蒲田…都内各地のネットカフェにいる人、すでに出された人からのSOSが止まりません。所持金がなく徒歩でしか動けない人もいるので、つながりのある他の支援団体にお願いをしてアウトリーチ型支援を続けていますが、これは都がやるべきことではないでしょうか?
・現状をメディアに報道してもらうために、依頼の来た取材は全て受けることにする。取材の電話をひたすら受け続ける。
都の対応を改善させるため、メール相談の対応は佐々木に任せ、オンラインでのロビー活動に専念することにする。会ったことのある都議会議員、国会議員に電話やメールで相談。自民党の国会議員にもオンライン会議で現状を訴える。与党の議員も、野党の議員も、問題点を認識してくれて、都や国への働きかけをしてくれる。
・夕方、東京都が宿泊枠を2000人分まで増やし、「都内6ヶ月未満」の人も受け入れることになった、という情報が入る。大きな成果だ。
4月11日(土)
・東京都はこの土日も「チャレンジネット」の窓口を開けることを決めたものの、相変わらず広報をしない。SNSでは、行政の代わりに私たち支援関係者が「チャレンジネットに相談に行ってください」と広報をしている。都から広報費をもらいたいくらいだ。
日本共産党や公明党、無所属の都議会議員、区議会議員も広報に力を入れている。足立区議会議員のおぐら修平さん(立憲民主党)はチャレンジネットや福祉事務所への同行もしてくれている。
この緊急時に「路頭に迷う人を出さない」というのは政治的立場を越えた共通の目標になりつつある。
・夕方、池袋の公園で行われているNPO法人TENOHASIによる路上生活者支援の炊き出し・相談会に顔を出す。自民党の国会議員と共産党の都議会議員も、それぞれ現場視察とボランティア参加を兼ねて現場に来ている。双方に、この間の協力のお礼を伝え、現状を説明する。
4月13日(月)
・都は土日に限り、「都内6ヶ月未満」の人も受け入れたものの、あくまでそれは緊急措置で、都が直接支援するのは「6ヶ月以上」いた人に限るというルールは死守する構えだ。
6ヶ月以上の人は、「チャレンジネット」で受け付けをして、5月6日までビジネスホテルに泊まれるが、6ヶ月未満の人への支援は、都ではなく、その人が以前泊まっていたネットカフェのある地域の区や市が責任を持つことにしたという。当事者にとっては、非常にわかりにくい仕組みだ。
そのため、11日(土)、12日(日)にチャレンジネットで受け付けをした6ヶ月未満の人は、今日、いったんホテルから出され、各自、自分のいた地域の区役所・市役所に相談に行ってください、という対応になっている。
・相談にのっていた男性から、区役所に行ったが、対応をしてくれなかった、という連絡が入る。同様の話が各地から入り、対応に追われる。
・この日は路上生活者支援の夜回りを予定していたが、感染リスクを踏まえ、ボランティアの参加は控えてもらった。
夜、ホームレス支援に関わる医師の車に乗せてもらい、路上生活をしている人にパンとマスクを2人で渡していく。顔見知りの多い中野周辺と有楽町周辺を回るが、公共施設や公園の一部区画が閉鎖されているため、どこに行ったかわからない人が何人もいる。
4月とは思えない寒さの中、みんなどこにいるのだろうか。
ビッグイシュー
ビッグイシューは1991年にイギリスで始まった事業。雑誌『ビッグイシュー』を発行し、ホームレス状態の人々にその販売の仕事を提供している。販売者は雑誌を路上で売り、その売上げの約半分を収入として得られる。『ビッグイシュー日本版』は2003年から発行。