前回(4月14日公開記事)、貧困問題や生活者支援の最前線にいる稲葉剛さんに、新型コロナウイルス蔓延の影響により住まいを失う人たちへの緊急支援の様子を寄稿していただいた。あれから1週間。その後の事態はどうなったのか。
*もう一つの緊急事態!「誰も路頭に迷わせない」ソーシャルアクションの記録(1)はこちら
2020年4月7日(火)
・国の緊急事態宣言が発出され、8日(水)午前零時から効力が発生することが決まる。東京都など7都府県が対象。
小池都知事は昨夜の記者会見で、住まいを失う人への緊急支援を実施すると表明。ネットカフェの休業により居場所を失う人も対象だと説明したが、事業の概要はまだ明らかになっていない。
・都庁への申し入れの呼びかけ人である北畠拓也さんが東京都に問い合わせたところ、都の緊急宿泊支援は新宿にある「TOKYOチャレンジネット」(以下、「チャレンジネット」と略す)が窓口になることが判明。チャレンジネット事業は都が2008年から実施しているネットカフェ生活者のための支援事業だが、私たち民間の支援者の間では非常に使い勝手が悪い事業として知られている。一抹の不安がよぎる。
・私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンド(以下、「つくろい」と略す)の事務局の佐々木大志郎と協議し、「東京アンブレラ基金」を通した緊急宿泊支援を緊急に拡充することに決める。「東京アンブレラ基金」は、「つくろい」が都内の13団体とともにつくっている基金プログラムで、クラウドファンディングで集まった資金を元手に、各団体が「今夜、行き場のない人」の相談を受けた際、1人あたり1泊3000円を4泊分まで出そうという仕組みだ。
1泊3000円というのはネットカフェでの宿泊を想定した金額だったため、この度のネットカフェの休業を受け、当面の間、ビジネスホテルに泊まることができる1泊6000円まで引き上げた。宿泊数も7泊まで対応できるようにする。同時に新たな寄付を募るキャンペーンも始める。
・緊急事態宣言が出るのを待たずに、早々と営業を自粛しているネットカフェも出てきている。東京都には一刻も早く緊急の宿泊支援を始めてほしいところだが、動きが遅い。このままでは、都が支援を始める前に、ネットカフェを出され、路上生活になってしまう人が続出するおそれがある。
・再び佐々木と対応を話し合う。彼は生活に困窮して、一時期、ネットカフェ生活を送っていた過去があり、以前からネットカフェに暮らすワーキングプアに届く支援を強化したいと語っていた。彼自身の経験から、電話よりもメールの相談のほうがアプローチしやすい、と判断。「つくろい」でメールフォームによる相談窓口を開設することを決める。佐々木が急いで、メール相談フォームを作り、緊急事態宣言が出る1時間前、23時にオープン。Twitterで紹介したところ、多くの人に拡散された。
・24時、緊急事態宣言が始まる。
4月8日(水)
・メールフォームを使って最初に相談をしてきたのは、意外なことに20代の女性だった。早速、メールで連絡を取り合い、新宿のアルタ前で待ち合わせ。「つくろい」のスタッフで、私のつれあいでもある小林美穂子と一緒に会うことにする。
いつもは人があふれているアルタ前には、私たちしかいない。アルタの大型ビジョンを通して流れる小池都知事の声だけが、新宿駅前の広場に響いている。どこかの映画で見たような光景。
相談者の女性と会い、ビジネスホテルに入ってもらう。とりあえず、ゆっくり休んでもらい、公的な支援につなげる予定。
・メールフォームに届くSOSがどんどん増えていく。緊急事態宣言が出る前からコロナの影響で仕事が激減している人が多く、所持金が残り数十円という人も。電話もすでに止められていて、フリーWi-Fiのある場所に行ってメールで連絡をしてくるようだ。メールが唯一の命綱になっている。
・佐々木と私がご本人とメールでやり取りを行い、「〇時に××駅前で待ち合わせ」と決めていく。自宅で待機しているスタッフに連絡して、現場に駆けつけてもらい、都の相談窓口に行く交通費や当面の宿泊費(「東京アンブレラ基金」を活用)を渡す。感染リスクがあることを踏まえて、面談は屋外で行い、なるべく短時間で終わらせる。
「屋外で待ち合わせをして、すぐにお金を渡すって、売人みたいだね」と小林が言う。
・ネットカフェに宿泊している若年女性には、虐待やDVの被害を受けて、家から逃げてきたという人が多い。若年女性の支援をしている一般社団法人Colaboも、ネットカフェから出された女性への緊急宿泊支援を始めている。Colabo代表の仁藤夢乃さんと連絡を取り、連携していくことを確認する。
・厚生労働省関係で良いニュースが二つ。一つは、私たちが長年、求めていた「住居確保給付金」の要件が緩和された。住居確保給付金は、民間賃貸住宅の家賃を補助してくれる制度だ。
ビッグイシュー
ビッグイシューは1991年にイギリスで始まった事業。雑誌『ビッグイシュー』を発行し、ホームレス状態の人々にその販売の仕事を提供している。販売者は雑誌を路上で売り、その売上げの約半分を収入として得られる。『ビッグイシュー日本版』は2003年から発行。