4月14日(火)
・自民党内に「ハウジングファースト勉強会」が設立され、初回の会合が開かれる。私はオンラインで講演を行い、従来の行政施策の問題点とコロナ危機における住宅支援の重要性について説明をする。
「ハウジングファースト」とは、生活困窮者への支援において、安定した住まいの確保を最優先にする支援アプローチである。コロナ危機において、ハウジングファースト型の支援が有効だという認識が与野党を問わず広がっているのは、喜ばしいことだと思う。
4月15日(水)
・13日(月)に区役所で生活保護を申請した男性からSOSのメールが入る。
役所の担当者から何の説明もないまま連れていかれたところが、相部屋の民間施設だった。他の入所者は誰もマスクをしておらず、せき込んでいる人もいて、怖くて仕方がないと言う。
「ここに案内されたことで先行きが真っ暗で。贅沢は言いませんが、あまりにも不衛生すぎる室内。食事も一口も手を付けてません。昨日も一睡もできませんでした」
「1日、過ごしてみましたが、今すぐにでもここから出たい気持ちでいっぱいです」
すぐにご本人と連絡をとり、小林ともう1人のスタッフが役所に交渉に行く。すぐにビジネスホテルに移れることになる。
・同様の事例が相次いでいるという報告を受ける。都内6ヶ月未満で、13日に生活保護を申請した人が次々と相部屋の施設に入れられている模様。
ネットカフェに休業要請が出されたのは、感染症の拡大を防ぐことが目的だったはずだが、そこから出された人がネットカフェよりも危険な場所に誘導されているのでは本末転倒である。
・背景には、東京都が4月10日に各区・市に出した事務連絡がある。そこでは、住まいのない人が新たに生活保護を申請した場合は、「第一義的に」民間の施設等を活用することと書いてある。都がビジネスホテルを多数確保したにもかかわらず、それはなるべく使わせまいという意図があるようだ。
・4月3日に申し入れをした際に、都の生活福祉部保護課長の名刺をもらっていたので、電話をして直談判をすることに。
保護課長は、民間施設を優先するのは「既存の制度の運用であり、変えられない」の一点張り。あまりに官僚的な受け答えに、「あなた、自分だったら、相部屋の施設に入れますか!」と問い詰めると、「当初の事務連絡は変えられないが、(各区・市あてに出す具体的な緊急一時宿泊場所利用についての)Q&Aを出し直して、柔軟に対応できるようにする」と答える。
Twitterに怒りの投稿。
怒りに体が震えている。ネットカフェを出されて野宿になり、やっとビジネスホテルに入れて助かったと思ったら、ネットカフェより環境の悪い貧困ビジネス施設に入れられる。その絶望感を理解できない人は、福祉の仕事を辞めた方が良い。
・夕方、都から新たな事務連絡(Q&Aの変更)が出る。本人とのやり取りにおいて民間施設が困難と判断した場合は、ビジネスホテルを使ってもよい。民間施設を使う場合も、施設の感染症対策を確認した上で、可能な限り個室で対応すべしという内容。
中途半端な改善ではあるが、相部屋に入れられた人が「こんなところは無理」と主張すれば、個室に移れる余地は広がった。
・北畠さんが起案し、ホームレス支援団体の連名で東京都と厚労省に新たな要望書を提出。個室対応の徹底を求める。
4月16日(木)
・反貧困ネットワークが呼びかけ、20以上の団体が集まって結成された「新型コロナ災害緊急アクション」が、各省庁との初めての交渉に臨む。
交渉のテーマは、福祉、労働、教育など多岐にわたる。私は住宅分野を担当している。
私が強調したのは、住居確保給付金制度を再改正する必要があるということ。4月20日から、離職者だけでなく、休職等により収入が減少した人にも門戸を開いたことは良いことだが、もう一つ、ネックになっているが、「正社員として雇用されることをめざして、求職活動に励む」という要件だ。
今回の危機では、フリーランスの音楽家やアーティストが経済的な打撃を受けている。その人たちに対して、正規雇用をめざして求職活動をしろと言うのは、今の仕事をやめろと言っているようなものであり、あまりに酷だ。せっかく対象者を拡大したのだから、求職活動の要件も緩和し、もっと使いやすくすべきである。
Twitterに書かれていた声楽家の意見も紹介しながら、厚労省の担当者に改善を求める。担当者は「持ち帰って検討する」とのこと。
・れいわ新選組の山本太郎さんより連絡。生活保護を申請した人が相部屋の施設に入れられるのを止めるため、厚労省の社会・援護局長に申し入れをするという。この件では、与党の議員も動いてくれている。
4月17日(金)
・4月9日(木)にメールで相談が来て、「つくろい」の個室シェルターに入所していた若者から、無事にビジネスホテルに移れたという連絡が来る。新宿アルタ前で待ち合わせをして、シェルターの鍵を返却してもらう。求人が減っていて、仕事探しも大変だが、がんばりますとのこと。
・厚労省が各自治体に新たな事務連絡を発出。
「新たに居住が不安定な方の居所の提供、紹介等が必要となった場合には、やむを得ない場合を除き個室の利用を促すこと、また、当該者の健康状態等に応じて衛生管理体制が整った居所を案内する等の配慮をお願いしたい」との内容が盛り込まれた。
当たり前のことだが、ようやく相部屋に入れるのはダメという方針が示されたことになる。
・厚労省が「新規の人については原則、個室へ」という方針を出したのに合わせて、東京都も新たな事務連絡を出し、「原則、個室対応」へと方針転換した。今後、新たに生活保護を申請した人が相部屋の施設に入れられる、という事態は避けることができそうだ。
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相部屋問題は、さまざまな立場の人が声をあげ、メディアが報道し、政治家も動いてくれたおかげで、短期間で改善を勝ち取ることができた。
だが、残された課題もある。
民間施設(無料定額宿泊所)がビジネスホテルに優先されるという点は変わっていない。東京都は多数のビジネスホテルの居室を確保したにもかかわらず、なるべくそれを使わせたくない、という姿勢は変わっていない。
もともと民間施設に入っていた生活保護利用者の置かれている環境も忘れてはならない。いま施設にいる人も、希望者は早期に居宅へと移行するかか、ビジネスホテルへの転居を進めるべきである。ビジネスホテルに入っている人についても、宿泊期間が終わった後、東京都や国に住宅支援を実施させる必要がある。
ビッグイシュー
ビッグイシューは1991年にイギリスで始まった事業。雑誌『ビッグイシュー』を発行し、ホームレス状態の人々にその販売の仕事を提供している。販売者は雑誌を路上で売り、その売上げの約半分を収入として得られる。『ビッグイシュー日本版』は2003年から発行。