迫害から逃れてきた難民や帰国できない事情のある在日外国人の日本在留を認めず、その収容施設に長期拘束(収容)している法務省・出入国在留管理庁(入管)。2019年6月、大村入管(長崎県)で、収容中であったナイジェリア人男性がハンガーストライキの果てに餓死した事件を受けて、法務省は、同年10月、法務大臣の私的諮問機関「収容・送還に関する専門部会」を開催した。
同部会は、2020年6月、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」を公表。提言は「退去強制命令を受けて入管施設に収容された外国人の収容長期化の解消」を主たる目的としており、今後、国会で、この提言を基に入管法が改正(改悪)されることが予想される。同専門部会の委員であった宮崎真弁護士に、提言の中身とその懸念すべき点や活用すべき点について聞いた。
そもそも「送還忌避者」とは?
「収容・送還に関する専門部会」は、学識経験者や弁護士、医師、NGO関係者等の10人の委員からなるもので、宮崎弁護士もその委員の一人。主に、難民その他帰国できない事情のある在日外国人の人権尊重という観点から、専門部会で発言してきた。その宮崎弁護士は、専門部会のそもそもの議論の出発点――「送還忌避者」(自発的帰国や強制送還を拒む者)の収容の長期化――から、ミスリードがあると指摘する。
「送還忌避者は、言い方を変えれば在留希望者です。いかに本国に帰すかが専門部会の議論のスタートでしたが、なぜ、彼らが日本にとどまることを望んでいるのかが、もっと問われるべきでした。単なる不法就労ではありません。
私が法務省側に求め提供されたデータによれば、入管の収容施設に収容されている、あるいは仮放免(被収容者が就労しない等、入管側が求める条件を守ることを前提に、収容施設から解放され、自宅等での生活が許可されること)されている在日外国人2982人(2019年6月末統計)の年齢層の内訳を見ると、10歳未満や10代は全体の1割くらいいます。60歳以上も、100人ほどいます。
入管の収容施設にいる被収容者が帰国できない理由については、延べ人数987人の中で、『家族同居』が179人(18.1%)、『子の養育』が123人(12.5%)、『難民認定手続中』が391人(39.6%)であり、一方、『稼働』(=就労)は19人(1.9%)に過ぎません(2019年12月末)。しかも、『家族が日本人』『子が日本人』だからというパターンがそれぞれ半数近くあります。
日本での外国人同士の結婚というケースもあり、それぞれの国に帰ったら子どもをどうするのか、という問題もあります」
後述する内容ともかぶるが、人権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なものである国際人権規約においては、「家族への恣意的・不当な干渉からの保護」(自由権規約第17条)および「家族に対する保護」(同第23条)などの条文があり、入管もこれらの条文を配慮すべきであり、簡単に強制送還などをすべきではないのではないか。
「長期収容の増加」…入管側にも原因あり
「また、今回の専門部会での議論の前提となる『送還忌避者』の長期収容が『増加』したという入管の主張には、入管側の対応にも原因があります。
収容の長期化は、入管側の運用、つまり、仮放免をしなくなったためだと言えます。2016年までは半年から1年ほど収容したら仮放免していましたが、2016年から2017年にかけて、1年を超える収容期間の被収容者が増えました」
法務省の統計を見ると、2015年12月の時点で、1年以上収容施設に収容されている被収容者の数は83人であったが、2019年6月には、その6.4倍の532人に激増している。3年以上の長期収容は、3人であったものが、76人となっている。
仮放免をめぐっては、2016年9月28日付で井上宏・法務省入国管理局長(当時)が、「仮放免の適正化に向け、積極的かつ厳格な運用」を収容施設の所長や地方入管の局長に指示してから、被収容者の仮放免がますます許可されにくくなったという経緯がある。
ノンルフールマン原則
迫害を受ける恐れのある人を、生命または自由が危機にさらされる恐れのある国に送還してはならないという国際法上の原則。