「日本ではまだまだ無理」と思われがちなインクルーシブ教育ですが、実は全国を見回せば、先行事例もたくさんあります。中には、大阪府豊中市や兵庫県芦屋市など、障害のある子が普通学級で一緒に学ぶための取り組みを、40年以上前から続けてきている地域もあるのです。
そうした学校に通う子どもたちを見ていると、子どもたち同士が非常にいい関係をつくっていると感じます。たとえば車椅子を使っている友達がいる、運動会の徒競走をどうするか――となったときに、みんなが真剣に話し合って「どうすれば一緒に楽しめるか」を考える。そうした経験の積み重ねが、大人になったとき、障害のある人と一緒に社会の中で生きていくための知恵を出し合うことにつながっていくのではないでしょうか。
さらに、インクルーシブ教育に長い歴史のある地域では、すでにそこで育った子どもたちが教員になって地元に戻ってくるケースも出てきています。彼ら、彼女らは、小さいころから障害のある子と一緒に育っているから、それが当たり前だという感覚を持っている。むしろ、障害のある子がクラスに1人もいないと「あれ、うちのクラスにはいないんですか?」と意外な顔をするほどです。
そうした感覚を持った人材は、すでに育ち始めているのです。
今回の権利委員会による勧告では、2016年に神奈川県相模原市で起こった「やまゆり園事件」にも触れられていました。障害のある人たちがなぜ、地域社会から切り離された入所施設で暮らさなくてはならなかったのか。その背景には、能力主義と優生思想が蔓延する日本社会の現状がある。そしてそのことがこの事件を生んだのではないかと指摘されているのです。
もし、本当に日本社会に「能力主義と優生思想が蔓延している」のだとしたら、それを生んだのは学校であり教育にほかなりません。そして、そうした状況を変えていけるのもやはり教育でしかないと思います。
障害のある子もない子も、多様な子どもたちが一緒に学べる場を、当たり前のものに──。今回の勧告を受けて、今こそインクルーシブ教育の実現に向けた取り組みを本格化させるべきだと考えます。