今回の原稿は、「閲覧注意」である。
というのは、「悪ノリのオンパレード」とでも言うべき1990年代〜2000年代 のある界隈について書くからだ。
きっかけは、ある本を読んだこと。といってもその本自体、人によっては本当に読まない方がいいし、それこそ「取り扱い注意」な一冊だ。
そもそもこうして取り上げることについても非常に悩んだのだが、ある意味で「時代の証言」であり、現在のヘイトや差別につながる問題を内包しているだけでなく、「組織」の中の暴走がどのようなメカニズムで起きるかということの記録にも思える。また90年代鬼畜系サブカルの影響を色濃く受けてきた今年50歳の一人として避けては通れないと思ったので、書きたい。
ということで、私が読んだのは樋口毅宏著『凡夫 寺島知裕。 「BUBKA」を作った男』(清談社Publico、2025年)。
『BUBKA(ブブカ)』と聞いてわかる人には説明不要だろう。
わからない人のために説明すると、それは1996年に発行された雑誌。白夜書房から発行され、のちに系列のコアマガジンに移籍(2012年11月号以降は白夜書房刊)。著者である作家・樋口氏はコアマガジンの元編集者だ。
創刊当初、私は愛読していた一人だが、内容はと言えば、初期はサブカル臭満載のものだった。
例えば『BUBKA』創刊前、サブカル的な雑誌で人気を集めていたのは『GON!』(ミリオン出版、1994年〜)。
本書では、『GON!』を〈世紀末を感じさせるB級カルト情報だけを一冊に集めた雑誌〉と紹介しているのだが、その内容は以下のようなものだ。
「89歳のバアさん暴走族ハコ乗り大暴走!」
「超電撃スクープ! 尾崎豊は新宿2丁目で生きている!」
「フィリピンから衝撃の写真が! 人を喰い殺したワニが人間に変身!」
まあ一言で言うと、シュールでくだらなくて誰もが嘘とわかる情報がてんこ盛りの雑誌だったのである。今思うと、『GON!』は笑えて罪のない企画が大半だったように思う。
しかし、『GON!』の後に創刊された『BUBKA』は独自の「進化」を遂げ、売り上げを伸ばしていく。
当時ブームだった「お宝発掘」系にシフトチェンジしたのだ。人気アイドルや女優の下積み時代の水着写真やヌード写真を掲載するというものである。
00年代には、『BUBKA』が大きく注目される「事件」が起こる。ある有名女優の流出写真が持ち込まれ、それを掲載したのだ。雑誌は即完売し、スポーツ新聞やメディアでも大きく取り上げられ、〈「ヤバい写真」と言えば『BUBKA』というイメージが世間にできたため、何をしなくても流出写真が次々と編集部に持ち込まれるようになった〉という。
私はこの頃くらいから「さすがにやりすぎ」とドン引きし、この界隈のものを読むことをやめた。00年代初めのことだ。
ちなみに90年代は『危ない1号』(データハウス)や『世紀末倶楽部』(コアマガジン)などをはじめとした悪趣味・鬼畜ブームの真っ只中で、暴力とエログロと死体とドラッグなどがごった煮の雑誌が売れに売れていた。
2001年に出た『裏BUBKA』(コアマガジン)もその流れを汲んでいる。表紙には〈人間の欲望を裏側から描き出すリアル体験マガジン〉という文字。内容は以下のようなものだ。
「総力特集 完全横領マニュアル〜会社のカネ悪用でワンランク上の極楽生活を~」
「許されざる淫行実態ルポ iモード・ストリートで女子中学生が餌食に!」
「レイプ魔インタビュー 婦女暴行犯、その悪辣な方法論のすべて」
他にも〈新興宗教の女性信者を狙ったナンパ。非合法ドラッグ体験。偽造学生証で金を借りる方法。借金の踏み倒し方〉などなど。〈およそ名が知れたメジャー誌では絶対にやらない、怖いもの知らずの企画が並んだ〉とある。
『裏BUBKA』の定価は880円だが、『BUBKA』の定価は390円(2001年) 。それがコンビニで買えて、当時の若い世代に読まれまくっていたのだ。90年代後半、貧しいフリーターだった私は当時、世を席巻していた小室ブームにはとても乗れず、「世の中の裏を暴く」ようなこの手の雑誌を読むことで、何か世界に復讐しているような気持ちでいた。
ちなみに『凡夫』の主題はそんな『BUBKA』を作った編集長である寺島知裕氏(2024年に死去)の悪行を振り返るものなのだが――本の帯には「モラハラの権化」「サディストの化身」「セクハラ鬼畜」などの言葉が並ぶ――ネットも今ほど普及しておらずSNSもない90年代から00年代、そしてまだまだ出版不況とは遠く、人々がお金を出して雑誌を買っていた時代、どうやって『BUBKA』が「暴走」していったかがよくわかる時代の証言となっている。しかも、内部からの。
さて、ここまで読んで、雑誌の見出しや内容などにすでにドン引きしている人もいるだろう。が、本書を読み進めていくと、今のヘイトにつながるものの萌芽が見え隠れする。
とにかく危ないものに手を出したい。売れればなんでもやるという文化。そして本書を通して漂うのは、危険なことをすればするほど身内の評価が高まるような、ホモソーシャルなノリだ。
〈企画が狂っていくほど売り上げに反映された。今で言うところの炎上系YouTuberがやるようなことを誌面で行っていた〉
その中でも目の前が暗くなったのは、『別冊BUBKA』(コアマガジン)のある企画(『BUBKA』には『裏BUBKA』だけでなく、『別冊BUBKA』『@BUBKA』などいろいろなシリーズがあった)。以下、引用。
〈表紙を捲る。巻頭グラビアが始まる。金閣寺の写真に「そうだ、京都行こう…」とある。問題はここからだ。ページを捲る。見開きで写し出されたものは、市営住宅、通り、ランドセルを背負った小学生たち。どこにでもある、ありふれた光景だった。しかしそこは被差別部落だった〉
当然、この号は大問題となる。編集者とライターは現地に行き、「集まった同和の人たち五十人」の前で、「雑誌で部落問題はタブー視されてきたが、もうそんな時代ではない。そろそろいいのではないかと思い、この特集を組みました」と述べたという。