――ただ、同じ親といってもいろいろな考え方の人がいます。
確かに、自分にぴったりのアライのグループがすぐ見つかるとは限りません。私自身、ノンバイナリー当事者が、当事者の親たちからの質問に答えてくれると謳うグループに入っては、追い出されるということを何度か繰り返しました。アレックスに聞いても納得できなかったこと、アレックスに聞きたくて聞けないことを全部ぶつけてみたんですけど、そういう私の態度は、回答してくれるノンバイナリー当事者にとっては攻撃的だと思われてしまったのかもしれません。
こういうグループでは当事者を傷つけないための厳格なルールが設けられていて、その必要性は理解しますが、親にも聞きたいことはあるし、感情だってあります。アライを探してみて「ここは合わないな」と思っても、あきらめずに次のグループを探してほしいです。私は紆余曲折を経て、「これを言ってはいけない」「あれをしてはダメ」と一方的に決められることなく、正直な自分の気持ちを聞いてくれる親の会を見つけて、やっと「ああ、息ができるようになった……!」と思えました。それまでずっと浅い呼吸しかできないようで、苦しい想いをしてきたから、あのときの安堵感は忘れられません。
実は今回の本は、アライを見つけるまでの間、整理できない自分の気持ちをなんとかしたくて書きとめてきた文章が元になっています。日本語で書いたので、アレックスには直接言えないことも率直に吐き出すことができました。ありのままの自分の気持ちを書くことで、どれだけ助けられたかわかりません。
日本でも、ノンバイナリーの子どもからカミングアウトを受ける親御さんがいるのではないかと思います。そういう人たちには、「混乱する気持ちも、あなたが今持っている誤解も、私がもう経験したから、この本を読めば同じことを繰り返さなくていいのよ」と伝えたいです。読者の方には、「ああ、自分も同じ気持ち」と共感したり、私の失敗や経験から学んだりしていただければ嬉しいですね。
トランプ政権の逆風に市民は黙っていない
――多様な性のあり方が社会的にも広がりを見せていたアメリカですが、2025年1月の第2期トランプ政権発足後、性別は「男」「女」のふたつしかないということを政府の公式方針とするなど、大きな揺り戻しが来ています。この動きをどう感じていますか。
ノンバイナリーに限らず、子ども世代が主張する新しい考え方を受け入れることのできない親たちもいます。また、子ども世代の中には、時折とても極端な主張をする人がいます。「自分のことは自分が自由に決められる。だから自分は猫だ」などと言われるとさすがに首を傾げてしまいますが、そういうごく一部の主張がセンセーショナルに取り上げられ、より一層、保守層の反発を呼んでいることは事実です。
トランプ政権はそういった反発を政治的にも利用しています。でも、トランプがどう言おうとアレックスの性自認はノンバイナリー。「トランプ、あなたは間違っている!」と抗議したいし、彼の言いなりになるつもりはありません。実際、当事者の親たちによる反トランプ運動が今、すごい勢いで盛り上がっています。もちろん当事者は当事者で抗議運動をしていますが、親は親同士、意気投合して草の根で連帯しています。虎や熊の母親が子どもを必死で守るのと同じで、「何があっても子どもを守る!」という気持ちは本当にパワフルで、立ち上がる親たちの姿はすごくかっこいいんです。
――日本にいると、その盛り上がりがなかなか見えにくいですが、アメリカ市民は黙っていないんですね。
自己主張の国ですから(笑)。トランプや彼を資金面で支えるイーロン・マスクが何かおかしいことを言ったら、たくさんの人がすぐにどんどん反論します。そうそう、違法移民を取り締まる移民関税捜査局(ICE)にかかってくる電話の9割が、マスク(南アフリカからカナダ、アメリカへと移住)を違法移民として通報しているそうです(笑)。こういうの、面白いですよね。
もちろん、「あと4年もトランプ政権が続くのか」と思うとうんざりしますが、何かして発散していかなければ単に疲れていくだけです。だから、できることがあるならやるし、何をやればいいかは、先にアクションを起こした人のやり方を真似ればいい。真似るだけなら、簡単です。私も、SNSで毎日、アクションをしています。私にも何かできる、我が子のために行動できるというのは、すごくやりがいを感じますね。