『過疎ビジネス』(集英社新書)で菊池寛賞を受賞した河北新報記者の横山勲さんと、『日本で一番美しい県は岩手県である』(柏書房)を上梓した朝日新聞記者の三浦英之さん。新聞記者として東北での勤務地がちょうど重なる二人が、地方の記者として、ノンフィクションの書き手として、何を、どのように伝えるのか――世代を超えて語り合った。

三浦英之さん(左)と横山勲さん(右)
『過疎ビジネス』――越えてはならない一線
三浦 はじめまして。横山さんの『過疎ビジネス』、とても面白く拝読しました。誰が見ても大ニュースになりそうなスキャンダルではなく、福島のとある町の事業をめぐる調査報道という、おそらくほとんどの記者が手を付けないであろうネタに切り込んでいく執念と、その結果明らかになった事実に驚かされました。
横山 ありがとうございます。私は、世の中は白か黒かではなくて、わりとファジーでいいんじゃないかと思っています。ただ、やはり越えてはならない一線というのが、あると思うんです。例えば、本で取り上げた企業版ふるさと納税を財源とした高規格救急車のリース事業の話も、これがもし1台だけだったら、私もそこまで本気で追及していなかったかもしれません。ところが人口8000人ほどの福島県国見町(くにみまち/伊達郡)では、高規格救急車を総額4億3200万円で12台購入していた。税金をそんなことに使っていいのかと疑問をもったのが取材の始まりでした。取材を進めていくと、事業を請け負った防災ベンチャー社長の「音声データ」を入手して、それを聞いたら、「なんじゃこりゃ!!」となったわけです。
三浦 入手した音声では、過疎の小さな自治体に対するコンサルの本音があけすけに語られていて、すごいインパクトでしたね。データの提供者は、もちろん身元がバレてしまうのを覚悟の上だったと思うのですが、よく出したなあ、と仰天しました。横山さんご自身も取材を進めていく過程において、弁護士を通じて訴えられそうになっていましたが、当時はどんな心境でしたか?
横山 今回取り上げた防災ベンチャー企業は、私が所属する「河北新報」でこれまで好意的に持ち上げてきた会社でした。でも、それとこれとは別の話です。公共事業にかかわっている以上、しっかりと説明責任を果たすべきだということで、真摯に取材して、相手の言い分も聞いて一問一答まで紙面に載せました。ところが、掲載後に取材した私にではなくて、会社に電話をかけてきて、挙げ句の果てに東京の大手弁護士事務所を通じて訴えるぞという書面が送られてきたんです。私は、そういう権威主義的な振る舞いがいちばん嫌いなので、頭にきましたね。
三浦 横山さんって、反骨的で、極めて北東北的な見方で言えば、とても青森県人っぽいですよね。正義感が強いというか。
横山 よく言われます……。出身地って愛憎半ばするものなので、ちょっと腹が立つ半面、まぁそうだなと思います(笑)。

『日本で一番美しい県は岩手県である』――熟成されたユニークな文化
横山 三浦さんの『日本で一番美しい県は岩手県である』を読むと、祠(ほこら)に向かってラジオ体操をする「体操神社」とか、私も取材したことのある岩手のユニークなところが写真とともに紹介されていて、岩手はいいところだったなと思い出しました。
私は記者2年目に盛岡に赴任したのですが、そのときの上司に毎日のように飲みに連れていってもらったり、ミックスバーに通い詰めて大人の人との接し方を教えてもらったりしていました。そのバーのママは、コロナのちょっと前にがんで亡くなってしまいましたが、盛岡という街には育ててもらったなと思っています。
三浦 私の『日本で一番美しい県は岩手県である』について言えば、東京や首都圏から来る人が読むためのいわば「ガイドブック」のような本には絶対にしたくなかったんです。むしろ岩手で普段暮らしている人たちに手に取ってもらい、「へえ、我々が住む地域はこんなに魅力的だったんだ!」と気づいてもらえるような本にしたかった。事実、岩手県内には、東京や日本の他地域では見られないような極めてユニークな文化が無数に存在していて、人口2万数千人の遠野市だけでも鹿踊(ししおどり)などの民俗芸能団体が60以上も存在している。北方文化と呼ばれる伝統や文化が普段の生活と密接に結びついていて、日本のどこを見渡してみても、こんな地域は他にはありません。いま私が暮らしている盛岡も、いまでこそスターバックスが入っていますが、以前は「スターバックスが潰(つぶ)れる街」と言われていました。個人経営の魅力的な喫茶店が至る所にあって、そこで市民が古典文学を読んでいたり、劇団の打ち合わせをしたりしている。盛岡ではそうした喫茶店が文化を熟成させる場所としていまもしっかりと機能していて、経済効率最優先の新自由主義的な世界の潮流にちゃんと抗(あらが)えている。「俺はこの映画がどうしても撮りたいんだ!」と熱弁をふるっている若者や中年が喫茶店の隣の席にいる街って、最高だと思いませんか?
横山 盛岡もいいですが、岩手県の真骨頂は、中山間地ですよね。県北部の葛巻町(くずまきまち/岩手郡)の方面とか私はすごく好きでした。
三浦 そうなんですよね。発展が遅れたと言われている北上山地の地域には、日本の原風景みたいな風俗や民間信仰がしっかりと残っています。今回の本では冒頭で「おしらさま」という、桑の木に1年ずつ布を被せていく神様を取り上げました。柳田國男の『遠野物語』では馬娘婚姻譚として紹介されていますが、遠野以外にもさまざまな伝承があって「謎の民間信仰」と言われています。この神様がいったい何なのか、結局誰にもわからないんですよ。本当に不思議な信仰であり、同時に素晴らしく魅力的な地域でもあります。
