四川大地震の「倒壊地獄」
2008年5月12日14時28分(日本時間15時28分)に発生した四川大地震では、数千棟の学校が無残に倒壊し、6000を超す児童や学生がその尊い命を奪われた。未来を担うべき子どもの死が、いかに悲しく痛ましいことであるかを、改めて思い知らされることになった。ところで、この地震による学校の「倒壊地獄」は、決して中国の四川だけのものではない。日本においても、残念なことに同様のことが起こりうるのである。というのも、学校の耐震化の遅れにより、大地震で倒壊する危険性のある小中学校が、全体の約4割すなわち約4万棟余も残されているからである。
学校耐震化の必要性
まず、学校の耐震化の必要性について言及しておきたい。その第1は、学校が将来を担う子どもたちの学びの場である、ということである。それゆえ、未来に夢を託すために優先的に耐震化をはかることが求められる。その第2は、子どもたちが住宅の中と同じかそれ以上の時間を学校の中で過ごしている、ということである。滞在時間と滞在人員の積によって被災の潜在リスクが求められるが、その潜在リスクの大きい施設の一つが学校である。このリスク軽減の視点から、学校の耐震化は避けられない。
その第3は、学校は地域に密着した極めて重要な防災拠点だ、ということである。災害時において、学校は避難拠点として、物流拠点として、情報拠点として「かけがえのない役割」を果たす。それだけに、学校が倒壊してしまうと、救護や救援のための対応が困難となり、被災者を二次災害や関連死の危機にさらすことになる。
その第4は、学校は行政の震災への姿勢を示すシンボル的な存在だ、ということである。行政は市民に対して住宅の耐震化を要請しているが、遅々として進まない。その理由の一つに、住民が行政の姿勢を見ている、というのがある。住宅の耐震化を進めるためには、学校の耐震化で範を示すことが欠かせない。
耐震化を阻む4つの壁
ところで、学校の耐震化がスピーディーに進まない理由として、「4つの壁」を指摘することができる。それは「意識の壁」「財源の壁」「技術の壁」「制度の壁」である。「意識の壁」というのは、万難を排して学校の耐震化をはかろうとする意識が欠落している、ということである。生命を大切にする姿勢が欠落しているために、「すぐには大地震が来ない」「他に優先すべき事業がある」といったことを理由に、耐震化が後回しにされている。
「財源の壁」というのは、自治体の財政危機の中で耐震化に必要な予算が確保できない、ということである。「赤字財政で学校耐震化に予算が回せない」「毎年1校の耐震化予算を確保するのが精一杯」と、財政難を理由に学校の耐震化を先送りする自治体が多い。
「技術の壁」というのは、耐震化の補強技術や施工方法が学校側のニーズに合致していない、ということである。耐震補強によって教室などの使い勝手が悪くなる、補強工事のために仮設校舎を造らないといけない、工事騒音などのために授業が妨害される、といった声をよく聞く。
「制度の壁」というのは、耐震性の劣る危険な建物に耐震化を義務づける仕組みがない、ということである。1981年以前の古い建築基準でつくられた建物は、現行の耐震基準を満たしていなくても、不遡及の原則により合法として扱われる。そのために、耐震化を法的に強制することができず、結果として危険な学校が野放しになっている。
学校耐震化の国民運動
東海地震や首都直下地震など巨大地震の発生が危惧される状況にある。それだけに、一刻も早く学校の耐震化100%を達成することが求められる。そこで問われるのが、いかにして学校耐震化のスピードをあげるのか、ということである。そのためには、先に述べた「4つの壁」の克服が欠かせない。そのうち財源の壁については、2008年6月に「地震防災対策特別措置法」が改正されて、耐震化の国庫補助率が2分の1から3分の2に増額されることになり、その克服が図られつつある。
技術の壁についても、構造的耐震性と環境的利便性との両立を可能とする技術開発が進んでおり、取り除かれつつある。となると、制度の壁があるが、何よりも意識の壁の克服が問題となる。
要するに、それはやる気の問題だといってよい。この意識の壁を打ち破るためには、学校耐震化運動への市民の参画が欠かせない。すべての学校についてその耐震性能の公表を求めることなど、市民が避難所ユーザーあるいはPTAとして積極的に関与することを期待したい。
地震対策特別措置法
中国の四川大地震で学校の校舎が倒壊したことから、地震防災対策特別措置法(2006年)を改正した法律。大地震で倒壊の危険のある公立小中学校施設の約1万棟を対象に、市町村が実施する耐震補強事業への国の補助を3年間に限定して2分の1から3分の2に、改築事業の補助を3分の1から2分の1に引き上げる。また市町村に耐震診断の実施と結果の公表を義務づけ、国と都道府県には私学の支援にも配慮するよう定めている。