火星探査機フェニックス着陸
2008年5月25日、アメリカの火星探査機フェニックスが火星の北極近くに着陸した。フェニックスは、火星に水が存在することを直接確認することを主目的とした探査機。これまで、火星周回軌道に入った探査機からの観測で、火星の両極地域の土壌に水が氷の形で存在していることを示す、間接的な証拠は得られていた。フェニックスは、火星表面に降りる探査機としては、初めて火星の北極地域に着陸。スコップを装備したロボットアームで着陸地点の土壌をすくい上げ、搭載した実験装置に投入して加熱した。その過程で蒸発した水分子を検出。7月31日、NASA(アメリカ航空宇宙局)は火星に、水が確かに存在していることを確認したと発表した。それに先だってフェニックスは、すくい上げた土壌中の白い物質が時間とともに蒸発するのを観測している。このため、水は土壌中に氷の形で含まれていると考えられてる。
フェニックスの復活
フェニックスは、2001年に打ち上げる予定で開発していたマーズ・サーベイヤー2001という探査機が復活したものだ。1999年、アメリカが火星に送ったマーズ・ポーラー・ランダー、マーズ・クライメイト・オービターの2機の探査機が、火星到着時にともにトラブルを起こして通信を途絶するという事故があった。事態を重く見たNASAは、事故再発防止を優先して後継機のマーズ・サーベイヤー2001をキャンセルした。
その後、NASAの別の予算枠を使いマーズ・サーベイヤー2001計画は再起し、復活を象徴するフェニックス(不死鳥)と命名された。
当初、火星表面の水の確認は、火星の南極地域に着陸するマーズ・ポーラー・ランダーが行う予定だった。フェニックスの成果は、計画に参加した研究者にとって10年越しの悲願だったのである。
生命が存在するには過酷な環境
水が確認されたことにより、今、火星土着の生命発見への期待が高まっている。火星の大気は、地表での大気圧が0.0075気圧と地球よりもはるかに希薄だ。成分は95%が二酸化炭素で、酸素は0.13%しか含まれていない。また地表温度は平均でマイナス43℃と寒冷である。赤道付近の夏でも15℃程度、極地方の冬はマイナス100℃以下に下がる。
しかし、地球の生物でも微生物の中には、火星表面と同じ環境でも生存することができるものがいる。多細胞生物でも、クマムシのように150℃からマイナス200℃までの温度変化に耐え、乾燥しても死なず、高い耐放射線特性すら示す生物が存在する。
かつては存在したかもしれない生命
火星表面には水が流れた痕跡が多数残っている。また、アメリカが2003年に火星に送り込んだ無人探査車スピリット、オポチュニティの調査により、火星表面には水がなければ生成しない鉱物が存在することも明らかになった。太古の火星は、豊富な水が存在していたと考えられている。これらのことを考え合わせると、かつて水が豊富だった時期に発生した生命が、その後の過酷な環境に適応し、現在なお水が存在している極地域の地下に生き残っていたとしても不思議ではない。
隕石の分析で期待が高まる
火星生命への期待は、地球に落ちてきた隕石の分析から始まった。1996年8月、NASAジョンソン宇宙センターのデイビット・マッケイは、南極で見つかった火星由来の隕石から、生命の痕跡を発見したと発表した。
地球に落ちる隕石には、かつて火星に巨大隕石が落ちた時に火星から飛び出した岩石が含まれている。マッケイはそれらのうちの一つ、「ALH84001」という識別ナンバーを与えられた隕石から、多環式芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons: PAH)という有機物を検出、その組成が地球上のバクテリアの生成物と類似していることを突き止めた。
また隕石内部に、生命痕跡とも解釈できるチューブ状の微細な構造が存在することも発見し、これらを火星生命の痕跡の可能性であると指摘した。同じ隕石中からは、微細な鉱物粒も見つかっているが、マッケイはそれは地上のバクテリアが作り出すもの似ているとしている。
この発表に対してはかなり厳しい反論が出ており、発表から10年以上を経た今日も、ALH84001から見つかったものが、本当に火星生命の痕跡なのか決着はついていない。
バクテリアなら存在する可能性も
火星に生命が存在しているとしても、単細胞のバクテリアのようなもので、高等な多細胞生物はいないだろうと考えられている。それでも、地球とは全く異なる起源の生命が見つかれば、少なくとも宇宙の中で生命の発生は珍しいことではないということの傍証になる。また、起源の異なる生命を比較研究することで、地球生命に対する理解も一層進むことになるだろう。例えば遺伝子のメカニズムの違いを調べるだけでも、莫大な知見が生命科学にもたらされるはずである。