パソコンには何が入っているのか?
「iPod」などのデジタルメディアプレーヤー、携帯電話、カーナビ、薄型テレビ、そして、もちろんパソコン。ぼくらの周りには、コンピューター、さらに、コンピューターのようなものが、ずいぶんたくさんある。ここでは、詳しくコンピューターを定義づけることはしないけれど、見かけは違っても、これら日常的に使っている道具は、すべてコンピューターだ。コンピューターは、ハードウエアとソフトウエアでできている。そして、ソフトウエアについてはオペレーティングシステム(OS)と呼ばれる基本ソフトと、アプリケーションと呼ばれる応用ソフトに分けて考えることができる。
たとえば、NECのパソコンを購入したとしよう。NECは部品メーカーからパソコンを構成するパーツを調達して組み立てたあと、ウィンドウズ(Windows)というオペレーティングシステムを組み込み、そして、ワード(Word)やエクセル(Excel)といったアプリケーションを組み込み、製品としての体裁を整える。
ソフトウエアにはOSとアプリケーションとがある
現行のウィンドウズは「ビスタ」(Vista)と呼ばれるバージョンだが、ビスタが登場するまでは「XP」(WindowsXP)というバージョンが使われていた。また、09年内には、「ビスタ」の後継として「ウィンドウズ7(セブン)」(Windows7)というバージョンが登場するとされている。オペレーティングシステムとしてのウィンドウズは、バージョンが進むごとに機能が強化され、インターネットなどにつないだときの安全性も高められる。通常は、開発元のマイクロソフトの意向もあり、パソコンメーカー各社は最新バージョンのウィンドウズを組み込んで製品を出荷する。
ところが、オペレーティングシステムは、ソフトウエアなので単体製品としても流通する。だから、一部のユーザーは自分のパソコンのオペレーティングシステムを自分でアップグレードするし、企業等の日常業務をこなすためのパソコンでは、古いバージョンに統一することもある。今、多くの企業では、いまだにXPが使われているはずだが、業務ソフトの互換性や安定性のために古いOSをあえて使うという選択をしているわけだ。
OSとは、パソコンの働きの基本のキ
カーナビやテレビ、携帯電話もコンピューターだと冒頭に書いたが、これらのハードウエアはOSとほとんど一体化され、OSの存在を意識することはまずないし、ユーザーがOSをアップグレードしたりダウングレードしたりということもない。よほどの不具合が発生しない限り、買ったときのままの状態で使い続けられ、故障や破損、機能を拡充した新製品への買い替えなどでそのライフサイクルを終える。コンピューターがダイニングルームだとすれば、オペレーティングシステムはテーブル、そしてアプリケーションはテーブルの上の食器とそこに盛られた料理だ。そして、身の回りのコンピューターのようなもののうち、テーブルをすげ替えることが難なくできるのは、パソコンだけだ。
多くのユーザーは、量販店でパソコンを購入する際に、そのオペレーティングシステムが何であるかということは気にしない。いや、気にしなかった。最新のパソコンを買えば、最新のOSがついてくる。ただそれだけのことだった。
婿一人(PC1台)に嫁3人(XP、Vista、7)の状態
ところが、ビスタの評判があまり芳しくなく、企業を始め、XPからの移行がなかなか進まなかった。会社で使うパソコンはいつまでたってもXPなのに、店頭で購入できるパソコンはビスタという二重の構造ができてきてしまったのだ。加えて、近く、7が登場しようとしている。そのため、ぼくらをとりまくパソコン用のオペレーティングシステムは、ハードウエアの進化を無視するかのように、三重の構造を維持していることになる。最新のパソコンは、XPでもビスタでも、そして7でも使える。そして、できることに、そんなに大きな違いはない。これだけ日常的なものになってしまったウィンドウズは、いくらよかれと思っても、従来の操作方法や対話の方法をドラスティックには変えられなくなってしまっているからだ。
最新版は機能豊富で安全。でも旧版も十分使える
5年前に購入したXPパソコンに慣れ親しみ、大きな故障もなく使い続けてきて、それでできることに満足しているなら、新しい環境に取り組んで新しい操作方法を覚えるなんてことはしたくないというユーザーが出てくるのも不思議ではない。でも、OS開発元としては過去の製品から最新の製品まで、複数世代のOSをきちんとサポートし続けるのはたいへんだ。だから、最新OSへ移行するようにユーザーをうながそうとする。パソコンのOS入れ替えの難易度がきわめて高いものだったらこんなことにはなっていなかったかもしれない。買って使い続けて壊れたら買い替える。そうすれば最新のOSがついてくる。パソコン以外のコンピューターのようなものは、みんなそうなのだ。
ハードウエアとソフトウエアは別のものだからその組み合わせは自由であるというのは、すばらしいことではある。でも、そのすばらしさが、ある意味でボタンの掛け違いとなり、今の状況を作っている。この状況は、それこそ、パソコンのように簡単にリセットできない点で根が深い。
09年内の発売ともいわれているウィンドウズ7は、かつてないほどOSとしての完成度が高いと評判だ。その登場で、このチグハグさに歯止めがかかればよいのだが。