放射線とは
放射線とは、放射性物質が崩壊するときに発生する粒子線や電磁波のことで、γ(ガンマ)線やβ(ベータ)線、α(アルファ)線、中性子線がある。今回の原子力災害で広範囲に地上に放出された放射性物質はセシウム134とセシウム137で、これらが放出する主な放射線はβ線やγ線である。β線はエネルギーを失いやすく、放射性物質を体内に取り込まない限り人体に大きな影響を与えない。また、体内に取り込まれた放射性物質が発生するβ線は測定できない。
一方、γ線は透過力が高い。100メートル程度離れた場所でも、放射性物質から出る放射線は、私たちの体を貫くことができる。こうした特徴から、空間放射線を測定するにはγ線を測定すれば十分である。γ線の個数が多く、そのエネルギーが高ければ高いほど、人体にとっての危険度が増加する。この放射線の人体への影響を表す単位としてSv(シーベルト)があり、(人体に吸収されたγ線の個数)x(エネルギー)として定義されている。
線量計の種類
放射線量を測定する機器を線量計といい、サーベイメーターとも呼ばれる。搭載するセンサーによって、ガイガーミュラー計数管、シンチレーション式、半導体式の3種類に分類される。測定できる放射線の種類は製品によって異なるが、ここではおもにγ線の測定を前提に話を進めよう。ガイガーミュラー計数管(以下、ガイガー管)は、金属の管の中にガスを封入し、管と内部にある金属線との間に電圧をかけたもので、放射線が入るとその一部がパルスを発生するのを利用して放射線の個数のみを測定する。これがガイガーカウンターと呼ばれる線量計である。すべての線量計をガイガーカウンターと呼ぶ向きもあるが、正確にはガイガー管を使った測定器だけがガイガーカウンターと呼ばれる。γ線と同時にβ線も検出できる製品の場合、地上に近づけて測定すると実際の放射線量より高い値になるので、注意が必要である。β線を遮断するには、数ミリのアルミ板で覆うのが有効である。
シンチレーション式は、おもにγ線を検出する線量計で、放射線がある種の結晶にあたると光が発生することを用いて放射線量を測定する。この方式の特徴は、発生した光の強さからγ線のエネルギーも測定できることである。結晶が十分大きければエネルギーを測定して、放射線が原子炉からきたセシウムによるのか、天然の放射性物質からくるのかを識別できる。
また、半導体式は、半導体を放射線が通過する際に生じる電子を信号に変える測定器で、おもにγ線を検出する。最近発売された安価な測定器に多く使用されている。
線量測定のしくみ
測定器にγ線が入るとほとんどは何の反応もおこさず透過するが、一部は線量計に当たって信号を出す。時間あたりのカウント数(計数率)をcpm(カウントパーミニッツ=1分あたりのカウント数)という。多くの線量計では、cpmに一定数をかけてマイクロシーベルト/時(μSv/h)に換算した値(線量率)を表示している。しかし、線量計の性能でもっとも重要なものはcpmである。比較的安価なガイガーカウンター(Radexあるいは同等品。1万5000円程度)は、線量率1マイクロシーベルト/時あたりでcpmが100程度である。5000円程度の半導体検出器は ~40cpm程度。一方、シンチレーション式線量計(10万円~)は1000cpm 以上ある。測定器のcpmが高ければ高くなるほど感度が良いだけでなく、測定数値が安定する性質を持っているのである。
また、このcpm値はあくまで「平均値」だということを覚えておこう。たとえば、100cpm程度のカウントが期待できる線量で、1分ごとのカウント数を測っても毎回100が出るわけではなく、ある時は90になり、次の測定では110になり、と変動がある。これはサイコロを60回ふった時に1の目が出る数が必ずしも10回ではないのと同じ現象である。例として、1マイクロシーベルト/時あたり1500cpmの線量計で、比較的低線量の場合の線量率の変動を示した。もっとも大きい値は0.081マイクロシーベルト/時、もっとも小さい値は0.059マイクロシーベルト/時と、実に1.5倍の値の差がある(赤線)。このように、平均的な線量に対して測定値は常にふらつくのだ。でも心配はいらない。何回か測定して平均すれば、ふらつきはどんどん小さくなっていく(緑線)。目的に応じた線量計を購入したら、なるべく一定の条件で10回、20回と連続して測定し、自分の装置、測定場所での平均値とふらつきを確認してみよう。そして正確な値が知りたい時は何回か測定して平均をとればいいのである。
計測された線量値は正しいか?
簡易式線量計で「正確な」値が出ることはまれである。線量計は、放射性物質が1カ所におかれているときに、正しい値からそれほどずれないように調整(校正)されているが、実験室の測定とは異なり、実際の環境では放射性物質は地面に浸透したり、樹木や屋根などに付着した状態で存在している。これが値のずれを生む原因の一つにもなっている。この理由を簡単に説明しよう。γ線は、線量計にたどりつく間に物に当たればエネルギーが下がり、放射線量も減る。ところが、γ線はエネルギーが下がれば下がるほど測定器と反応しやすいという性質をもっており、計数率が増える。このため、エネルギー補正機能を持たない簡易式線量計の場合は、実際より高い値がでてしまうのだ。
さらに、ガイガーカウンターの場合は、ガイガー管のノイズを自身で拾ってしまうため、放射線量が0であっても0.05~0.1マイクロシーベルト/時のかさ上げがあり、とくに低線量の場合は、実際の値と数値が異なる。このほか、電源を入れたばかりの線量計は値が不正確であること、携帯電話やパソコン、掃除機などの電磁波を出す装置のそばではノイズによる誤動作の可能性があること、半導体式は振動に弱いことも考慮にいれておきたい。また、食品中の放射性物質は一般に量が少なく、線量計だけで測定できることはまれであることも知っておこう。
放射線測定は、体重計や体温計の測定とは異なるので、数字の意味を正しく理解するために基本的な知識は身につけておいたほうがよい。最近は解説書も珍しくなくなったので、一冊は読んでおくといいだろう。安価な線量計が発売され、全体に価格は下がってきているものの、悪質な広告もまだまだ見受けられる。線量計についてはウェブ上でも多くの情報が提供されているが、内容の詳しさから次のサイトをお薦めしておこう(ただし、価格については現在のものとは異なる)。
◎放射線・放射線測定器のメモ
http://www.mikage.to/radiation/