たくさん造ってきたから安全かというと、そうではないですよね。ウェスティングハウスも、自分で技術を開発してたくさんの原発を造ってきたけど、スリーマイル島原発で事故は起こりました。GE社も、世界中におそらく100基くらい沸騰水型を造ってきたけれど、福島で事故を起こしているわけですから。原子力の場合は、実績があるから安全だとは、必ずしも言えないと思います。
――この原子炉の売りの一つは、圧力容器の下部にコアキャッチャーという構造物があることだそうです。これがあるので、仮にメルトダウンが起こっても、福島の事故のように、熔け落ちた核燃料がどこにあるかわからないという状況にはならないとアピールしています。
福島では、熔けた炉心がどこにあるのかもいまだにまったくわからないという状況ですので、そういう事態を避けようと設計することはもちろん良いことだし、ぜひともやってほしいと思います。ただ、コアキャッチャーがあったとしても、炉心が熔けてしまったら大量の放射性物質が外に出るのは避けられません。ですから、熔けた炉心がどこにあるかということは大切な問題ですが、大量の放射性物質が放出されて周辺を汚染するということに関しては、ほとんど役に立ちません。
冷却ができなくなって炉心が熔けると、大量の放射性物質を含んだ猛烈な蒸気が格納容器内に充満し、圧力も温度もどんどん上がっていくわけです。格納容器にはふたがついていて、パッキンを挟んでボルトで締めてあります。今回の福島の事故でもそうだったとみられていますが、内圧と温度が高くなると、まずパッキンがもたなくなって、ふたとの隙間から気体の放射性物質が漏れ出します。それだけではなく、格納容器には配管や電源ケーブルなどの貫通部もたくさんあるので、そこからも漏れたのだろうと私は思います。
コアキャッチャーがあろうとなかろうと、こういうことは起きるのです。
地震や事故を考慮したら原発輸出はできない
――日本は、同じ中東のヨルダンにも原発を輸出しようとしています。ヨルダンも、三菱がアレバと組んだ原発を受注しようとしているのですが、建設予定地が首都アンマンから30キロと近く、しかも砂漠のど真ん中で、冷却水は7キロ離れた下水処理場の処理水を使うといいます。下水処理場との間には高低差も100メートル近くあり、停電や故障などでポンプが止まった場合、原子炉の冷却ができなくなる危険性も懸念されています。このような場所に原発を造ることについて、どのように思われますか?原発を造ろうとする側からすると、事故のときに水が足りるか、足りないかということは、おそらくまったく頭の中にないのでしょう。日本も福島の事故が起きるまではそうでしたし、世界中どこでもそうだと思います。
通常運転の時に必要な真水をどうやって確保するかということは、もちろんみんな考えているわけだし、この原発の場合には下水処理場の水を使うということで、その程度の考え方だろうと思います。
それに、ヨルダンもけっこう地震が多い国です。福島の事故を起こし、事故の経験から学んで「世界一安全な原発を輸出する」と言っている日本がこういう所に原発を輸出するというのは、私には正気の沙汰とは思えません。でも、大きな事故は初めから無視するということにしないと、そもそも原発は成り立たないのです。
日本には再処理技術はない
――トルコに話を戻しますが、同国と締結した原子力協定の中には、日本が同意すれば、トルコは使用済み核燃料の再処理も行えるという条項が入っています。これについてはどのように思われますか?同意するも何も、そもそも日本は自前では再処理できません。独自に再処理技術を持っていないからです。
フランスに茨城県・東海村の再処理工場を造ってもらい、その技術を学んで、青森県・六ヶ所村に再処理工場を造ろうとしましたが、それもできませんでした。結局、六ヶ所村についてもフランスに造ってもらうことになりましたが、全部造ってもらうのは格好悪いので、高レベル廃液をガラス固化するところだけは自前でやろうとしたわけです。でも、それも結局はできませんでした。だから、日本がトルコに再処理を認める、認めないなどということは、もともと言える立場にないのです。トルコとそのような協定を結んだところで、何の効力もないと思います。
――トルコとの契約は、原発の建設だけでなく、運転から廃棄物の処理まですべてパッケージで担う形になると見られています。廃棄物処理に関しては、同じく日本が原発輸出を進めているベトナムからも求められています。これらの国から使用済み核燃料を引き取って、六ヶ所村で再処理しようとしているのではないかという指摘もありますが、これについてどのように見ていらっしゃいますか?
くり返しになりますが、日本は再処理技術を持っていません。それに、仮に再処理できたところで、放射能が消えるわけではありません。だから、日本では2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を作って、地下に埋め捨てにすることを唯一の方策として決めたわけです。
しかし、法律ができてからもう10年以上たっているのに、まだ実現できていません。それどころか、昨12年9月には、「学者の国会」ともいわれる日本学術会議が、原子力委員会からの諮問に答えて、埋め捨て計画の白紙撤回を求める提言を出しました。要するに、完璧に破綻しているのです。だから、最近になってモンゴルへ持っていこうというような話が出てくるわけです。
こうした状況で、外国の核のごみを引き取ってくるなどということは、できる道理がないと私は思います。
核不拡散体制はすでに崩壊している
――もう一つの問題点として、使用済み核燃料の再処理は核兵器の原料となるプルトニウムを取り出すことであり、トルコは紛争の多い中東にあるだけに、核武装を可能とするような条項を入れることについては、自由民主党の中からも安全保障上の懸念が出されているようですが…。そもそも、原発を造ること自体が、核兵器を持ちたいという動機で始まっていると私は思います。それは日本も同じです。「平和利用」などと言いながら、本当は、いつでも核兵器を造れる能力を持ちたかったわけです。
エネルギーだけで考えたら、原子力のコストは圧倒的に高いし、資源の量も圧倒的に少ないわけですから、このようなものに国家の命運を賭けるなど、これほどバカげたことはあり得ません。国家が原発を推進しようとするとき、その最大の目的は「核兵器」であると見るべきだと、私は思います。
――日本は、核不拡散条約(NPT)に未加盟で核兵器保有国のインドとも原子力協定を結ぼうとしています。
加圧水型原子炉
炉心を冷やす一次系の冷却水を沸騰させずに、熱交換器である蒸気発生器を通して二次系の冷却水に熱を伝えて沸騰させ、その蒸気でタービンを回す軽水炉。二次系の放射能汚染を防げるが、システムは複雑になる。
沸騰水型原子炉
炉心を冷やす一次系の冷却水を原子炉圧力容器内で沸騰させ、その蒸気で直接タービンを回す軽水炉。最も単純なシステムだが、放射性物質で汚染された蒸気でタービンを回すことになるほか、環境への放射性物質の放出も多い。
スリーマイル島原発の事故
1979年3月28日に、アメリカのスリーマイル島原子力発電所2号機(加圧水型)で発生した事故。二次冷却系のポンプの故障によって格納容器内で水素爆発を起こし、炉心の半分が溶融して原子炉圧力容器の底に落ちた。国際原子力事象評価尺度(INES)による評価では、レベル5の過酷事故となる。
ガラス固化
使用済み燃料を再処理して、ウラン、プルトニウムを分離すると、高レベル廃液と呼ばれる液体が残る。この液体を長期保管のためにガラス原料と混合すること。固形化した塊は、ガラス固化体という。
埋め捨て計画
高レベル放射性廃棄物を地底深くに埋めるという案で、この処分法は「地層処分」とも呼ばれる。日本では、2000年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立し、再処理ののちガラス固化体にして、深さ300~1000メートルの地底へ埋める方法が決定した。
核不拡散条約
国連に加盟する国のうち、常任理事国でもあるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の核保有5カ国以外の国による核兵器開発・保有を防ぐことを主な目的とした条約。1968年に署名、70年に発効。
国連安保理常任理事国
国連に加盟する国のうち、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国で、いずれも核保有国となる。それ以外にも、残りの10カ国の中から、2年の任期で非常任理事国が選ばれる。
チェルノブイリ原発の事故
1986年4月26日に、旧ソビエト連邦・ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号機(黒鉛減速炉)で発生した事故。操作ミスにより核分裂反応の臨界状態が暴走して大爆発を起こした。国際原子力事象評価尺度(INES)による評価では、最悪のレベル7となる深刻な過酷事故となる。