批判は当然です。ただ、私は今の核不拡散体制に反対なのです。現在の核不拡散体制は、国連安保理常任理事国の5カ国が、自分たちは核兵器を持つけれど、他の国には持たせないという、完全な不平等体制です。そんなものは到底認められないし、彼らが持っていいなら、どの国だって持っていいはずです。
もちろん、どこの国も持たないというのが私の一番の願いですが、残念ながらそうはなっていないのです。
インドは1974年に、初めて原爆実験に成功しました。当時のカーター米大統領は、「原子力の平和利用」などと言って世界中に原子力をばらまいてしまうと統制が利かなくなるので、自国の中でも、もう原発のための再処理工場はやらないと宣言しました。他の国に「やるな」と言うためには、自分たちの手もある程度縛る必要があると言って、筋を通したわけです。それで、インドにも原子力技術は提供しないと言って、原子力協定を破棄しました。
それをひっくり返したのが、息子の方のブッシュ米大統領です。彼は、原発で金儲けをしたかった。これから世界では、中国とインドを中心にして、原発をどんどん造る時代が来る。もう核不拡散なんて言っていられない、それよりも金儲けだということで、インドと再び原子力協定を結んだのです
ですから、もう核不拡散体制なんていうのは崩壊しているのです。少なくとも、米国とインドの間では崩壊している。日本が、もし本当に核不拡散を実施しようと思うのであれば、インドとの原子力協定など結んではいけません。しかし、日本もまた核兵器が欲しいと思っているわけだし、米国と一緒になって金儲けをしたいと思っているわけですから、何とかインドと原子力協定を結ぼうとしているのです。
日本は米核戦略の格好の「駒」
――一方、日本が原発輸出しなくても中国やロシアが輸出することになるので、それだったら安全上も核不拡散上も日本が輸出した方がいいという主張もありますが…。米国がそう言っています。米国は、世界の原発市場で金儲けをしたい。ただ、自国には製造ラインがないので、日本にやってもらわなければ金儲けができない。だから、日本を逃さないのです。
さらに、米国は、核不拡散も含めて米中心の世界秩序を今後も維持したいと思っています。そして、日本はそのための格好の駒になっているわけです。日本を使うことで、核の分野における米国の支配の網を維持しようとしているのです。
そもそも、日本の原発が中国やロシアの原発よりも安全だなどと、なぜ言えるのでしょうか。
中国は少なくとも、福島のような事故は起こしていません。だから、事実として、日本の方が安全で優れているなんて言えません。もちろん中国も、最近の国内での公害などを見ていると色々と問題がある国だとは思いますが、原子力の技術だけ見れば、独自に核兵器も製造しており、技術のバックグラウンドは日本よりも優れているのではないかと思います。
ロシアにしても、チェルノブイリ原発の事故はありましたが、何と言っても世界で一番初めに原子力発電所を動かした国ですから、原子力の基礎的な力は日本以上に持っています。
ただ、米国の思惑からすると、中国やロシアが世界各国に核技術を広めることになって自国の支配が脅かされるのは嫌だと思っているでしょうから、日本が米国の「属国」である限りは、日本を使って中国やロシアに対抗させようとするはずです。
原発輸出につきまとう賠償責任の重さ
――原発は「兆円規模」の大きなビジネスである一方、リスクも非常に大きいのが特徴です。最近では、12年1月に米国のサンオノフレ原発で三菱が輸出した蒸気発生器が故障し、これが原因となって廃炉に追い込まれたとして、三菱は米電力会社から契約上の賠償上限額を大幅に上回る40億ドル(約3900億円)を請求されています。原発輸出には、メーカーにとってもこういうリスクがあるわけですが…。加圧水型のトラブルは、ほとんどが蒸気発生器です。蒸気発生器は、一次系の熱を二次系に渡すための設備です。熱交換の効率をよくするためには、細管と言われるパイプの厚さを薄くするしかない。でも、効率性を追求して薄くすればするほど、細管にピンホールが開いたり、破断して放射能が漏れるリスクが高まるという根本的なジレンマがあります。日本でも、PWRは軒並み蒸気発生器が壊れていますよ。美浜(福井県)もそうだし、伊方(愛媛県)もそうだし、あちこちで壊れています。
これだって元々は、ウェスティングハウスが設計して造ったものです。それを三菱がまねして造っているだけです。だから、私は三菱だけの責任ではないと思うけれど、実際に造って納めた企業としては責任をとるしかないでしょうね。
でも、賠償には国際政治の問題が絡んできます。たとえば、福島第一原発の1号機を造ったのはGE社ですが、そこでこれだけの事故が起こって、日本がGE社に賠償を請求するかというと、そんなことは言えないわけですよね。
――インドには、原発事故が起きたらメーカーにも責任を問える法律がありますが、それがネックになって輸出する外国企業がいなくなると困るので、法務大臣が13年9月に「運用で適用除外もできる」という発言をしています。このように国際政治の様々な思惑の中で、原発ビジネスの障害になるものを取り外していくということが行われています。
汚い世界ですよね。
圧力と懐柔の構造も輸出することになる
――トルコでもベトナムでも建設予定地になっているのは、農業や漁業といった第一次産業以外の産業がなくて、若者の雇用がないような過疎地です。ここでも日本と同じような構図があるように思います。経済的に困窮して、何とか生き延びようとする所が狙い打ちにされて、原発を押し付けられる。原発が来てくれて金になるなら、というふうに思う人もまたいるわけです。日本もずっとそうでしたし、おそらく世界中どこでもそうなのでしょう。
――ベトナムでは、インターネット上で原発建設に反対する署名運動をしていた人が、国から圧力をかけられ、サイトを閉じさせられたということもあったそうです。
日本もそうでした。最初は米国から原発を導入して、たくさんの金や利権が動き、反対した住民はつぶされていったわけです。そうした動きはどこの世界でも起きてきたし、今でも程度の差はあっても同じことが行われていると思います。
原発輸出は代償のほうが大きい
――原発輸出ビジネスを推し進めて、日本は何を得て、その代償は何だと思いますか?金を得て、国際的な信用を失うでしょう。
1基輸出すれば5000億円は入るわけですから、金儲けはできると思います。でも、私は、小さなことを言っていると思うのです。現在、日本の原子力産業は2兆円規模です。その収益がなければ日本の経済は崩壊してしまうと言っているわけですが、たとえばパチンコ産業などは20兆~30兆円規模の産業です。それと比較しても、原子力など瑣末な部類にしかならないわけです。そのようなものを捨てたとしても、なんということはありませんし、原子力がなくなったら日本の経済が崩壊するなど、あり得ません。
さらに、今回の福島第一原発のような事故が起きたら、何十兆円かかるかわかりません。私は福島第一原発の事故の収束にかかる予算は、100兆円でも足りないと思います。
加圧水型原子炉
炉心を冷やす一次系の冷却水を沸騰させずに、熱交換器である蒸気発生器を通して二次系の冷却水に熱を伝えて沸騰させ、その蒸気でタービンを回す軽水炉。二次系の放射能汚染を防げるが、システムは複雑になる。
沸騰水型原子炉
炉心を冷やす一次系の冷却水を原子炉圧力容器内で沸騰させ、その蒸気で直接タービンを回す軽水炉。最も単純なシステムだが、放射性物質で汚染された蒸気でタービンを回すことになるほか、環境への放射性物質の放出も多い。
スリーマイル島原発の事故
1979年3月28日に、アメリカのスリーマイル島原子力発電所2号機(加圧水型)で発生した事故。二次冷却系のポンプの故障によって格納容器内で水素爆発を起こし、炉心の半分が溶融して原子炉圧力容器の底に落ちた。国際原子力事象評価尺度(INES)による評価では、レベル5の過酷事故となる。
ガラス固化
使用済み燃料を再処理して、ウラン、プルトニウムを分離すると、高レベル廃液と呼ばれる液体が残る。この液体を長期保管のためにガラス原料と混合すること。固形化した塊は、ガラス固化体という。
埋め捨て計画
高レベル放射性廃棄物を地底深くに埋めるという案で、この処分法は「地層処分」とも呼ばれる。日本では、2000年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立し、再処理ののちガラス固化体にして、深さ300~1000メートルの地底へ埋める方法が決定した。
核不拡散条約
国連に加盟する国のうち、常任理事国でもあるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の核保有5カ国以外の国による核兵器開発・保有を防ぐことを主な目的とした条約。1968年に署名、70年に発効。
国連安保理常任理事国
国連に加盟する国のうち、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国で、いずれも核保有国となる。それ以外にも、残りの10カ国の中から、2年の任期で非常任理事国が選ばれる。
チェルノブイリ原発の事故
1986年4月26日に、旧ソビエト連邦・ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号機(黒鉛減速炉)で発生した事故。操作ミスにより核分裂反応の臨界状態が暴走して大爆発を起こした。国際原子力事象評価尺度(INES)による評価では、最悪のレベル7となる深刻な過酷事故となる。