空飛ぶラジコン=ドローンではない
まず最初に、ドローンの基本をおさらいしておきましょう。そもそも、ドローンとはなにを指すのでしょうか。いわゆるラジコン(ラジコン模型航空機)となにが違うのでしょうか。ドローンとラジコンとの大きな違いは、「自律性」にあります。ラジコンは、無線による遠隔操作(radio control; R/C)によって飛行するものを指します。一方、ドローンは、ラジコンと同じく無線による遠隔操作を行いますが、コンピューターとセンサー、データを活用した自律的な姿勢制御が可能となっています。ラジコンに比べて格段に飛ばしやすく、GPS情報を使用した自動飛行が可能となっていたり、バッテリーが少なくなると自動的に操縦者のもとに帰還できたりする機体もあります。
実際、ドローンには多種多様な形状が存在しますが、一般的には、自律的に飛行する無人機(Unmanned Aerial Vehicle;UAV)がドローンと呼ばれています。は、私なりにドローンをいくつかの視点から分類したものです。
ドローンは、もともと軍事用途からスタートしました。民生用(一般向け)ドローンは、カーナビのようにGPSなどの軍事用技術が民生用に転用され、低価格化が進んだ高機能マイコンやジャイロセンサーなどのセンサー類、高精細カメラなどを搭載したものがラジコンホビーの延長として生み出されました。これらは、正確にはマルチコプター(複数のプロペラで垂直に離発着する小型ヘリコプター)といい、数千円のオモチャ(トイ)から、何十万円もするプロユースまであります。
たとえば、私が実験用に使用しているParrot社のBebop Droneは民生用ホビー向けマルチコプターと呼ぶべき製品です。この製品は、スマホの画面のボタンを押せばそのまま自律的にホバリングできます。これは各種センサーから得られるデータをコンピューターで高速処理し、姿勢制御しているからです。スペックとしては、最長飛行距離2キロ、高さ200メートルの性能を持つ、まさしく空飛ぶロボットです。
産業用ドローンへの期待
最近のニュースからドローンといえば空撮や輸送を思い浮かべる人が多いでしょうが、現在、ドローンに期待されているのは、「産業用ロボットとしての活用」です。つまり、ドローンが変えようとしているのはビジネスであり、その先にあるものは、ドイツが推進している第4の産業革命(インダストリー4.0)とか、IoT(Internet of Things)、IoE(Internet of Everything)という、いままでにないビジネスの姿です。IoTとは「モノのインターネット」と呼ばれ、パソコンやスマホ以外のモノ、たとえば冷蔵庫や自動車などをインターネットにつなぐ技術を指します。IoEはさらに進んで、すべてのモノやヒトをつなごうというものです。ここで大きく貢献するのがドローンであり、これは空の産業革命ともいわれています。今は無人飛行機型が中心ですが、産業活用も多種多様であり、今後、用途によっては車輪型や二足歩行型などさまざまなタイプのドローンが出てくるでしょう。ドローンをビッグデータ活用のためのセンサー端末として活用することが、今後主流となってくると私は見ています。なにより、いままで人間ではできなかった作業が可能になる、重要なアイテムになります。
現在、ビッグデータと組み合わせて、製造業や農業など多くの産業でどう活用するのかといった議論が続けられています。最も有望なのは、農業の工業化です。1次産業だった農業が、IT化により土壌管理や収穫などを自動で管理する「精密農業」という新しいビジネスを生むに至っています。ドローンによる農薬散布だけでなく、空からの生育管理も実験が進んでいます。
また、重機メーカーのコマツでは、空撮した動画を高速処理コンピューターで画像解析して地形を測量し、3Dモデル化することを試みています。この3Dモデルをもとに、自律的に作業する重機のプログラムを自動生成するといったことが可能となります。
このように、ドローンとIT技術の連携こそが今、世界で求められていることなのです。
安易な禁止ではなく、迅速なルールづくりが必要
首相官邸ドローン落下事件以来、一気にドローン飛行規制の議論が始まりました。しかし、すべてのドローンを一緒くたにして規制してしまうことはいささか乱暴です。いま必要なのは、禁止という意味での規制ではなく、どのように活用するかという意味も含めての「ルールづくり」です。産業利用と趣味利用を切り分けて当面のルールをつくり、技術動向や事例に対応してルールを変更するというアプローチが必要になるでしょう。カナダのような先駆的な国のルールをベースに作成し、現実的プロトタイプとしてのルールを適用するというのが有効だと思います。ドローン活用のためのルール策定は多岐にわたり、身近なところでは盗撮防止などプライバシーへの配慮や、操縦の免許制度の導入などが気になりますが、まず重要なのは、飛ばす場所と使用周波数の問題です。
第1に、飛ばす場所をどうするかです。現状でドローンを直接規定する法律はなく、主に航空法が適用されます。航空法では、ドローンはラジコンと同様、模型航空機に分類されるので、航空路内では高度150メートルまで、航空路外では高度250メートルまでは飛行が可能です(ただし、空港から半径9キロ以内は飛行禁止)。現在では、秋田県仙北市の「近未来技術特区(ドローン実証特区)」のような計画も進められていますが、ビジネス活用のためには全国的な視野に立った法整備が必要になります。もちろん、住宅街などでの運用は安全性の確保が必要です。
第2は、電波の周波数帯です。ドローンの多くは2.4GHz帯、5.8GHz帯の電波を使用します。データの伝送力は電波の特性として5.8GHz帯のほうが高いため、産業利用ではこちらが有望なのですが、日本の電波法では5.8GHz帯の屋外利用はできないという規定があります。産業利用で使用できる周波数帯の割り当ても重要な論点となります。
この他、安全性の高いバッテリーの開発や小型GPS機器の精度の向上など、技術面の課題も残っています。
ドローンが変える人間と機械の関係
さらにドローンが変えようとしているのは、私たち人間と機械との関係です。ドローンは、人間と機械がどのように生活のなかで融合できるのか、どう仕事を切り分け共存するのかといった、近未来の世界のあり方を象徴するものでもあるのです。アメリカの経済学者エリク・ブリニョルフソンは、『機械との競争』のなかで、人間は機械との仕事の取り合いで負け続けていると指摘しています。ドローンの動向は今後、人間が機械に負け続けるのか、あるいはともに融合していけるのか、その行く末を占います。そのような未来において、日本が乗り遅れないように、しっかりとドローンに向き合っていくべきだと思います。
第4の産業革命
ドイツが2011年から推進している、産官学一体の製造業高度化プロジェクト「インダストリー4.0」のこと。18世紀にイギリスで始まった石炭を使った工業化を第1の産業革命、19世紀後半から20世紀初頭にドイツやアメリカで起きた電力化による大量生産の実現を第2の産業革命、20世紀後半にアメリカから始まったコンピューターの導入による工場の自動化を第3の産業革命と呼ぶことから、インダストリー4.0はその次の産業革命、第4の産業革命と言われている。