瞑想を成功させるコツ
「瞑想によって悟りの体験が得られるか?」と問われると、私は「はい、得られると思います」と答えます。というのも、悟りの体験とは、おそらくは脳科学的にも説明できる現象だからです。脳の特定の部位がなんらかの損傷や刺激を受けると、言葉に表せないほどの多幸感が得られるというような報告もあり、それが「世界との一体感」といった言葉でこれまでは語られてきたのだと思います。ですから、瞑想は確かに脳に働きかける力があるのですが、そのような体験を目的にしてしまうと瞑想はうまくいかないでしょう。実際、私の知る限りでは、臨済宗でもこういった意識の変容は重視しません。私は、大切なのはものの見方を大きく転換することではないかと思っています。それによって、こだわりやとらわわれを手放すことができるようになるのではないかと思います。瞑想を続けてみて私自身が思うのは、瞑想で何かを得ようとしたり救いを求めたりすると、それが足かせになってしまうということです。目的があれば、結果を得られないことに対して自己批判を行うことにもなってしまいます。こだわりを手放すこととは真逆の方向に行ってしまうのです。
ただただ座る。日々変わりゆく自分や世界とあるがまま対峙し、眺め、観察する。なかなか難しいですが、瞑想の根幹は何も求めないことです。その結果、自分をがんじがらめにしていた固定的な価値観から抜け出せたら、その結果としてクリエイティビティが備わることもあるでしょうし、リラックスしてものごとに取り組めるようになって、仕事の効率が上がる可能性も大いにあります。
私たち現代人は日々忙しく暮らし、周りには溢れかえるほどの情報があります。便利な世の中ですが、私たち自身の五感が鈍くなっていれば、環境の豊かさは感じ取れなくなってきます。生活の中に、観察することはたくさんあります。座る、立つ、歩く、食べるといった日常の動作も、一つ一つの動きと感覚に注意を向けて観察してみてください。五感を使って自分の身の回りの様々なことを観察してみるのです。それは瞑想にとても近いものです。最近私が好んで行っているのは、お風呂で湯船に浸かり、自分の腕に感じる浮力を観察することです。触覚を通して、浮力に集中してみることもまた、日常のなかでできる瞑想の一つだと私は考えています。五感が研ぎ澄まされてきて、普段は無視していたようなことにふと気づけるようになってきたら、心に余裕ができ始めたサインです。瞑想には様々な形がありますが、根本は自分と自分の周囲の世界を感じ、観察することではないかと私は思います。最近、いろいろな遊び道具を入れた「豊かな環境」がアルツハイマー病の病変を減らすことが、マウスの実験で報告されています。まだ証明されてはいませんが、周りの世界の「豊かさ」を観察することで脳の老化が抑えられるかどうか、ご自分でもチャレンジしてみてはどうでしょう。