さらに、人狼知能プロジェクトのメンバーで、電気通信大学の篠田孝祐(こうすけ)助教などは、そもそも「ゲームの面白さの本質とは何か」を、人狼ゲームを題材に探ろうとしています。人狼ゲームの面白さや魅力は、人によっても、時と場合によってもバラバラです。それを定量化できれば、面白い人狼ゲームだけをしてくれて、場を盛り上げてくれるエージェントが開発できるのではないかと期待しています。
加えて、テレビでもタレント同士が人狼ゲームを行っている様子が放映されていたように、第三者が人狼ゲームの対戦を見て楽しめるような人工知能を構築することも重要だと考えています。
人狼知能プロジェクトでは、このような将来を見据えたロードマップを設定しており、幅広い研究分野を包含した「グランドチャレンジ」として位置づけているのです。
人狼知能プログラム「饂飩(うどん)」の衝撃
2015年からは「人狼知能大会」を年1回開催しています。第1回大会は、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2015」内で開催しました。その様子がニコニコ生放送で生中継されるなど、大きな注目を集めました。そのときの応募は78チームで、実際に人狼知能のプログラムを開発して提出できたのは、45チームでした。そのうち、上位15チームが決勝戦に進みました。
合計112万4390ゲームが行われ(プログラム同士の対戦は1プレー数十秒しかかかりません)、その中から勝率によって順位を決定したのですが、優勝した「饂飩(うどん)」チームは、最下位である15位のチームに比べて約10%も高い勝率でした。最初の大会で、ここまで突出したソフトが出てくるとは私も驚きました。
第1回大会に参加したチームのエージェントのソースコードはすべて公開しており、参加したい人はそのソースコードを利用することができます。そのため、16年開催の第2回大会では、饂飩のソースコードを利用した“饂飩チルドレン”が多数見られました。それでも優勝したのは「饂飩」チームでした。
「饂飩」が圧倒的に強かった理由を私なりに分析すると、やはり、人狼ゲームに精通しており、人狼ゲームの本質を理解していたからではないでしょうか。今後は、機械学習を取り入れた人狼知能の登場なども期待しています。
第3回大会は2017年8月上旬に開催予定ですので、より多くの方に参加してほしいと願っています。スポンサーも増え、賞金も出ますので、ぜひ挑戦してほしいですね。プログラムの参考になればと思い『人狼知能で学ぶAIプログラミング』(共著、17年、マイナビ出版)という本も出しました。
現在、人狼プロジェクトは、人間と人工知能との対戦に不可欠な、人間が日常的に使っている自然言語をコンピューターに処理させる技術である「自然言語処理」の研究がスタートしたばかりという段階で、ゴールまでの道のりはまだまだ長いといったところですが、このプロジェクトを通して、人工知能に関するさまざまな研究が進むことを期待しています。