エクソソームを取り出すマーカーとして利用できるのです」
新たなマーカーで、エクソソームの「取れ高」を増やせるかもしれないわけだ。
エクソソーム研究は、生命の機密情報をこじあける
今回の論文でエクソソームに含まれるタンパク質を網羅的に調べることで、がんか非がんか、そしてがんの種類を見分けることが示されたが、完璧に分けられたわけではない。今後は、その精度のさらなる向上を目指して研究を続ける予定だ。
とはいえ、コロナ禍の中、思い通りには研究を進められない。星野氏は、昨年(2019年)帰国し、東京大学で講師を務めた後、今年4月から東工大に赴任した。3月、研究室を立ち上げつつあったところに新型コロナウイルスの世界的流行がはじまり、政府の緊急事態宣言を受けて、大学への行き来も制限された。オンライン会議などで、共同研究者と連絡を取り合いつつ、少しずつ研究再開の準備を進める。
共同研究者の一人、東京大学医学部附属病院女性診療科・産科の橋本彩子氏は、今回の研究で主に患者サンプルのエクソソームを取り出す部分を担った。産婦人科医でもある橋本氏は、星野氏と同時期にコーネル大学に留学し、「歩子さんから研究の面白さを教えられた」という。
「エクソソームの研究を、妊娠高血圧や妊娠糖尿病などの妊娠合併症の治療につなげたい」(橋本氏)
胎盤の細胞も、やはりエクソソームを放出して、母体に物質を送りとどけている。小さな袋に隠された新たな生命からのメッセージを読み解けば、母と子を苦しめる病を防げるかもしれないわけだ。
東京大学薬学部の大学院生(修士課程1年)の杉浦圭氏は、今回の研究で、エクソソームを取り出すのに役立つマーカー探しの実験に取り組んだ。昨年、東大の学部4年のときに星野氏の講義を聴いたのをきっかけに実験に参加した。杉浦氏は将来、自閉症の研究にエクソソームを活かしたいという。
「自閉症の診断も治療法もまだ確立されていません。自閉症の仕組みを解明したい」(杉浦氏)
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このようにエクソソームは、がんに限らず、さまざまな領域で、新たな研究ツールとして期待されている。かつて「細胞のゴミ」と見なされ軽視されていたが、エクソソームはゴミどころか、実は生命の機密情報をたくさん詰め込んでいるのである。
特異度
検査の精度を示す指標。ある検査が、がんのない人を「陰性」と正しく判定する割合のこと。