新型コロナウイルスワクチンの接種が世界で、そして日本でも始まった。しかし、主なワクチンだけでも、接種回数、持続期間、取り扱い方法がずいぶん異なる。
「mRNAワクチン」「ウイルスベクターワクチン」という言葉ばかりはよく聞くが、どんなものなのか説明しようとすると詰まってしまう人も多いのではないだろうか。
体内に接種するものなのに、その仕組みや作用、正体を知らないままでいるわけにはいかない。そこで、「ワクチンとはそもそも何なのか」「どんな種類があるのか」「新型コロナワクチンの種類と違い」などについて、ウイルス研究の世界的権威である河岡義裕・東京大学医科学研究所教授に解説していただいた。
WHO(世界保健機関)が2020年3月11日に新型コロナウイルスのパンデミックを宣言してから、1年が経ちました。この間、各国の研究機関や製薬会社がワクチンの開発に挑み、かつてないスピードで数種類のワクチンが完成に至りました。
日本政府は国外の製薬会社3社と契約を結び、すべての日本人が接種できる数のワクチンを確保して、すでに医療従事者への先行接種を始めています。日本に供給されるワクチンはどういうものか、国内ワクチンの開発はどこまで進んでいるのか。今回はそれについてお話ししますが、その前に、そもそもワクチンとはどういうものなのか、そこから始めたいと思います。
そもそもワクチンとはどんなものか
ワクチンとは、感染症の発症や悪化を防ぐ医薬品です。我々の体には、病原体となるウイルスや細菌などの異物(抗原)の侵入を防ぐ「自然免疫」という先天的な防御システムが組み込まれています。自然免疫をすり抜けて病原体が体内に入ってきた場合、それを異物として記憶することで、次に同じ異物が入ろうとするとき、「獲得免疫」という後天的な防御システムが作動し、異物を排除する物質(抗体)をつくるなどして侵入を阻止します。この働きを利用し、毒性を弱めたり失わせたりした病原体をワクチン(免疫原。免疫をつくるもと)として体内に入れ、防御システムをつくらせるのが、ワクチンによる感染症予防の基本です。
ワクチンの第1号は致死率の高い天然痘を予防する「種痘」で、1796年に英国の医師、エドワード・ジェンナーが開発しました。ジェンナーによるワクチンは、ヒトの天然痘によく似た病気をウシにもたらす牛痘ウイルスを弱毒化したものです。
その後、ジェンナーの手法が発展し、コレラ、ペスト、狂犬病など、細菌やウイルスによる感染症に対抗するワクチンがつぎつぎと開発されました。現在は、病原体となる細菌やウイルスを使用する従来型のワクチンだけではなく、さらに進歩した新しいワクチンも開発されています。
ワクチンの種類
2020年まで、世界中で利用されているワクチンは大きく3つに分類されていました。新しいワクチンについても以前から研究されていましたが、新型コロナウイルスの出現で開発が一気に進み、ワクチンの種類がさらに追加されたのです。新しいものを含めて、現在実際に活用されているワクチンをごく簡単に説明します。
【生ワクチン】
生ワクチンとは細菌やウイルスを「生かしたまま」、病原性 を弱めてワクチンとして利用するものです。ワクチンとして投与された病原体はまだ生きているので体内で増殖し、これに反応して抗体などがつくられます。言わばワクチンの原型で、結核を予防するBCGワクチンや風疹ワクチン、ロタワクチンなどがあります。